脊髄損傷後の痛みの治療には、さまざまな薬が使用できます。
しかし、痛みの種類に合った薬を選ぶことが非常に重要です。
つまり、痛みの分類法を用いて、さまざまな痛みの中から痛みの種類を特定し、正確に把握して、その痛みの種類に合った薬を使用する必要があるのです。
例えば、筋骨格痛に使用する薬の種類は、神経障害性疼痛の場合とかなり異なります。
これまでに見てきたように、筋骨格痛とは、骨、筋肉、関節、靭帯から発生する痛みです。
この種の痛みには、アセトアミノフェンのようなシンプルな鎮痛薬や抗炎症薬がよく効きます。
こういった薬の中には、例えばイブプロフェンのように処方せんなしで薬局で購入できるものもあれば、医師の処方がないと入手できない抗炎症薬もあります。
これらの薬は、炎症を緩和し、痛みの発生源である筋肉や関節から痛みのメッセージが脊髄を通って脳まで上がっていく経路を遮断します。
炎症がみられる場合には抗炎症薬を使用することがありますが、その際には注意が必要です。
脊髄損傷の患者さんでは、胃の刺激によって生じる感覚を認識するのが難しいことがあるためです。
神経障害性疼痛には、違った薬が必要になります。
それは、今まで見てきたように、神経障害性の痛みを引き起こすメカニズムが、筋骨格痛の場合とかなり異なるためです。
そして・・脊髄損傷後には神経系に変化が起きますが、神経障害性疼痛の治療薬は、この神経系を直接ターゲットとしています。
この用途で使用されている薬には、主に2つのグループがあります。
1つ目は、抗けいれん薬または抗てんかん薬と呼ばれるグループで、2つ目のグループは抗うつ薬です。
抗けいれん薬としては、ガバペンチンやプレガバリンなどがあります。
これらは、てんかんの患者さんに使用する場合と、ほぼ同じように作用します。
これらの薬には、損傷した神経や脊髄損傷後の脊髄で起こる細胞の興奮や異常な活動を鎮める働きがあります。
神経障害性疼痛の治療に使用される薬のもう一つの大きなグループが、抗うつ薬です。
このグループには、アミトリプチリンやノルトリプチリンなど、これまで長い間使用されてきた薬のほか、ベンラファキシンやデュロキセチンなど、比較的最近になって使用できるようになったものもあります。
このグループには、これまで長い間使用されてきたアミトリプチリンやノルトリプチリンなどのほか、比較的最近になって使用できるようになったベンラファキシンやデュロキセチンなどが含まれます。
こういった抗うつ薬は、医師が痛みの原因をうつ病と判断したために勧められるわけではなく、実際はこれらの薬が脊髄内の化学物質を変化させることで痛みのゲート を閉じ、それにより神経障害性疼痛の軽減を助けるからなのです。
事実、抗うつ薬を神経障害性疼痛の治療に使用する場合には、うつ病の治療として使用する場合よりもかなり少ない用量で使用します。
オピオイドと呼ばれるグループの薬 は、脳と脊髄を含めた神経系全体に存在するオピオイド受容体に働きかけます。
しかし、オピオイドは消化管の細胞にも作用し、この種の薬を使用する患者さんの多くにみられる便秘の一因となります。
オピオイドは非常に強い薬で、短期間で優れた効果を発揮します。
つまり、急性疼痛に非常に適した薬と言えます。
オピオイドは体全体に広く作用するため、あらゆる種類の痛みに使用することが可能です。
筋骨格痛にも神経障害性疼痛にも。
しかし、神経障害性疼痛には、たとえ高用量で使用しても、オピオイドがあまり効かないことが分かっています。
つまり、多くの患者さんにとって、オピオイドは痛みの軽減にあまり効果的ではないのです。
脊髄損傷後の早期に手術を受けた後や外傷を負った後など、痛みが短期間で重度のものであれば、強いオピオイドであるモルヒネやオキシコドンなどが疼痛コントロールに非常に有用となる場合があり、損傷後早期の来院時にしばしば処方されます。
オピオイドの問題の一つは、時間経過に従って徐々に効果が弱まることで、この現象は「耐性」と呼ばれています。
また長期間、高用量のオピオイドを使用すると、ホルモンへの影響など、他の重大な副作用にもつながることがあります。
さらに、オピオイドは本来もつ鎮痛効果とは逆の作用・・、つまり、痛覚過敏と呼ばれる痛みへの過敏性を引き起こすこともあります。
他によくみられる副作用は、眠気、目のかすみ、口の乾燥、頭痛、吐き気、頭のもやもや感、記憶喪失などです。
また睡眠にも影響する場合があり、睡眠時無呼吸症を悪化させます。
免疫機能やテストステロンの量にも影響を及ぼすことがあります。
性欲減退や不妊症の可能性もあり、うつ病が悪化することもあります。
他に重大な副作用として、意図しない過剰摂取や死に至るケースもあります。
とても重い副作用を経験した薬もありました。
私は初めにガバペンチンを処方されましたが、この薬のせいで心膜炎、つまり心臓周辺に炎症を起こしてしまいました。
ショックでした・・なぜなら・・ガバペンチンをやめることが恐ろしかったからです。
・・突然やめるのは大変恐ろしいプロセスでした。それまで高用量で使っていたのですから。
結局またこの薬に戻らなければならず、それからゆっくりと減らしていきました。
本当に不思議で怖いものです。
薬の副作用というのは・・・。
薬への耐性という問題もありました。
前の医師から非常に高用量のオピオイドを処方されており、私の体には薬に対してとても強い耐性が生じていました。
今では変わりましたが。
耐性は大きな問題になります。フレアアップ が起こって本当に薬が必要になったときに、薬を継続して服用していると、完全な耐性ができていて薬が効かなくなるからです。
オピオイドの使用にはマイナス面や副作用もありますが、それでもオピオイドは疼痛管理計画において一定の役割を果たす可能性があります。
疼痛管理にオピオイドを使うと担当医と決めたのであれば、通常はまず試しに使ってみることをお勧めします。
これは、オピオイドの効果を確認することだけでなく、使用によってもっと活動的な生活を送ることができるのか、また低用量から中用量で十分な鎮痛効果が得られるのかを確認するためです。
鎮痛のために使用する薬は、痛みの強さを軽減する効果が十分あるだけでなく、耐えられない副作用がなく、かつ日常生活上の能力を高め、活動のレベルを維持できる効果が十分にあるものでなければなりません。
ときに、痛みには効果があっても、薬の副作用が効果を上回ってしまうこともあります。
副作用が現れる場合や、痛みをコントロールするために用量を徐々に増やさなければならない場合には、オピオイドが疼痛管理の最善の方法ではないということはほぼ間違いありません。
自分に合った薬を見つけるプロセスは、モニタリングを続けながら慎重に進んでいく試行錯誤の道のりであり、これが、担当医との良好なコミュニケーションが重要になる理由の一つです。
協力して、あなたに最も合う薬を見つけるのです。
また医療チームも、使用している薬を定期的に確認する必要があります。
処方している薬について、あなたが今感じている痛みの種類に最も適切な薬であるかを確認します。
疼痛日誌をウェブサイトからダウンロードして、痛みの記録のために活用してもよいでしょう。
これを通院時に持っていけば、あなたが服用している薬が痛みに効いているかどうかを、医療従事者が確認することが可能になります。
多くの場合、痛みの治療には複数の薬を併用します。
なぜなら1種類のみで効果があることが示されている薬はないためです。
同じグループに属する薬でも、薬は一つ一つ違います。
薬の作用はすべて少しずつ異なり、また同じ薬に対してでも患者さん一人一人の反応は大きく異なるものです。
私は痛みのコントロールには、いくつかの方法があることを知りました。
もちろん薬はその方法の一つで、今の私にとって、ある程度大きな存在となっています。
それからロイヤル・ノース・ショア病院の先生方が書かれた素晴らしい本もあり、薬以外の方法で痛みを管理するさまざまな手段が紹介されています。この本はとても役に立ちました。あまり無理をしすぎない ことや、必要なときには多めに休憩をとることなど、自分のペースをコントロールする方法がたくさん紹介されています。
それで・・痛みがとてもひどくなったときには、私は瞑想をします。
以前は鎮痛薬をたくさん服用していました。
ガバペンチンも、オキシコンチンも、エンドン も使いましたし、どれもかなり高用量で服用していました。
薬のせいで、ときどき眠気におそわれたり・・、ふらつきが出たりすることがあり、簡潔に・・一言で表すとすれば、、怠惰になっていたと思います。
これくらいは動くべきだろうと思ってはいても、実際はあまり活動せず、だらだらと長い時間寝ていました。
脊髄の専門医とかかりつけ医と相談して、当時の痛みは何とかやっていける程度と判断し、薬をやめてみることにしました。
痛みがひどくなるか、変わらないか、副作用があったのかどうかを確かめてみようと考えたのです。
薬をやめるのには望んでいたよりも長くかかりました。
それでも、急に全部をやめてしまうのではなく、8カ月ほどかけて徐々にやめるようにしたおかげで、薬を中止することで生じる副作用をうまく抑えらることができたのだと思います。
そして、気がつきました。鎮痛薬の量を減らしても、実際の痛みは悪化していないことに。
それで、もはや鎮痛薬は私の身体に何の効果ももたらしていないのではないかと考え、もっと減らしてみることにしました。
そして・・今では、「当時服用していた薬はどれも使用していません」と言えることがとても嬉しいです。
それから・・・痛みの強さはひどくならず、以前と変わりません。
痛みがないわけではありません。
でも、1日に20錠もの薬をのんでいて、それでも痛みの強さが変わらないという状況でないことが幸せです。
痛みの管理と薬の使用については、先ほどもお話したような痛みを和らげる別の方法で薬の使用を避けられる場合には、たいていそうしています。
その他にも服用している薬があります。
例えば、筋弛緩薬のバクロフェンは、痙縮を止めてくれます。痙縮をがよく起こり、痙縮をも痛みの原因となりますので。
今では痛みは前ほど強くはありません。
痛みを乗り越え、痛みのコントロールを学んだからです。
昔ほどたくさん薬を使用していません。
それは・・だから・・痛みをコントロールできているからです。
痛みに圧倒されることはなくなり、自分が痛みをコントロールできるようになりました。
薬は役に立つもので、確かに一定の役割を果たしますが、それが唯一の答えというわけでは決してありません。
脊髄損傷後の痛みの性質として、薬であれ、他の方法であれ、一つの対処法だけで効果的となる可能性は高くありませんので、
疼痛管理には、さまざまな方法や手段を使うのがよいでしょう。
それには薬理学的な方法、つまり薬も含まれますが、薬以外にも選択肢はあるのです。
さまざまな対処法や手段を用いて最善の効果を引き出すのが得策です。
鎮痛薬はひどい痛みをまず和らげるのに使えます。
そうすれば続いて、痛みを緩和して生活への影響を小さくするのに役立つ、薬以外の手段や自己管理の方法を試してみるためのエネルギーが得られることでしょう。
ここでお話しした対処法や手段を活用され、ウェブサイトで他の患者さんの体験談を聞かれることで、ご自身でもやってみようという気持ちになっていただければ幸いです。
ビデオの画面下にある「私のヘルスプラン」のリンクからPDFファイルをダウンロードして、疼痛管理計画を作成しましょう。
印刷してください。
それぞれのビデオを見終わったら、適切な項目に書き込んでください。
一度記入していただくだけで結構です。
記入したヘルス計画は、かかりつけの医師や医療従事者の診察を受ける際にお持ちください。
これは、あなたの痛みを管理するための素晴らしい出発点です。