Topic No.179ヒト変形性膝関節症における疼痛感覚は糖尿病によって増強される
Pain sensation in human osteoarthritic knee joints is strongly enhanced by diabetes mellitus.
Eitner A, et al. Pain. 2017;158(9):1743-1753
要約
目的:
変形性膝関節症(膝OA)患者は痛みに苦しみ、高齢の膝OA患者では糖尿病は重大な合併症である。そこで本研究は、終末期の膝OAの疼痛強度に対し、糖尿病が有意に影響するかを検討すること、また糖尿病の有る膝OA患者の疼痛強度の変化に関連する因子を特定することを目的とした。
方法:
TKAを受ける糖尿病患者23例および非OA患者47例において、術前の疼痛強度を「Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)」を用いて評価した。さらに、滑膜組織、滑液(SF)、軟骨および血液から得られた、滑膜炎スコア、SFおよび血清中のプロスタグランジンE2およびインターロイキン-6(IL-6)の濃度、C反応性蛋白(CRP)およびHbA1cの濃度、ならびに血清中の他の代謝パラメータの変化を測定した。
結果:
糖尿病患者は、非糖尿病患者よりも平均してKOOSの痛みスコアが高かった(P <0.001)。糖尿病患者の膝関節は、非糖尿病患者の膝関節よりも高い平均滑膜炎スコア(P = 0.024)およびSFにおけるIL-6の高濃度(P = 0.003)を示した。多変量回帰分析では、①より高い滑膜炎スコアを有する患者が、調査された全ての交絡因子とは無関係に、より強い痛みを有し、②疼痛強度とIL-6レベルとの正相関は、糖尿病と滑膜炎に依存することを示した。
考察:
これらのデータは、糖尿病が膝OAの疼痛強度を有意に増加させ、糖尿病患者では、より高い疼痛強度はより強い滑膜炎に基づくことを示唆する。
コメント
高齢者の健康寿命延伸は社会的課題であり、認知症、肺炎、フレイルやサルコペニアと共に、痛みに対しても対策を講じる必要性が非常に高い。高齢患者では個人差が大きいこと、一個人で複数疾患を有していること等が特徴であり、糖尿病を合併していることが多い。本研究は、その多くみられる高齢患者の膝OA痛において、糖尿病が増強因子であることを見出した。この所見は、高齢者の痛みの複雑な病態を理解する上で興味深く、また予防対策が講じ得るものであり臨床的意義が高い。
ホームページ担当委員:園田 悠馬