Topic No.110ラットにおけるオペラントモデルを用いたプラセボ鎮痛
Placebo-induced analgesia in an operant pain model in rats.
Nolan TA et al, Pain. 2012 Oct;153(10):2009-1
要約
背景/目的:
プラセボ鎮痛に関する歴史は古く、プラセボ鎮痛そのものが現代医療の中の一つの手段として受け入れられている。しかし、「痛い」と言わない動物で、プラセボ鎮痛に関する報告は殆どない。本報告は、ラットにおいて「プラセボ鎮痛」が存在するかどうかを検証した研究である。 本研究では、ラットが「甘いミルクを飲むために、どれだけの熱の痛み刺激に耐えられるか」を調査した。
方法:
まず対象となるラットの条件付け(訓練)を行った。条件付けでは、ラットは16時間空腹にされた状態とし、ミルクを飲むためには、ラットの鼻が熱刺激となる部分に触れるようになっており、そこで熱刺激を受けるように設定された。
最初に、48時間間隔(実験‐実験)をあけて、6回の実験を行った。その最初の6回の実験中の熱温度は、ラットにとって侵害刺激にならない37度に設定し、20分間に何回ミルクを飲むかカウントした。
6回の実験の後(7回目)、熱刺激が48度になるように設定して、ラットが熱刺激に耐えてミルクを飲むかどうかを成功率としてカウントし、その成功率をBaselineとした。次の実験(8回目)では37度として、その次(9回目以降)から、熱刺激48度にして、次の3群に分けて成功率の変化を検証した。
・1群(N=8):実験前に生食皮下投与(9回目)⇒生食を皮下投与(10回目)⇒生食投与(11回目)
・2群(N=19):実験前にモルヒネ皮下投与(9回目)⇒モルヒネ投与(10回目)⇒生食投与(11回目)
・3群(N=10):実験前にモルヒネ皮下投与(9回目)⇒モルヒネ投与(10回目)⇒ナロキソン投与(11回目)
結果:
○ 9回目(COND 1)の成功率を比較すると、1群と2群で有意差がみられた。また10回目(COND 2)の成功率を比較すると、1群と2群、及び、1群と3群で有意差がみられた(Fig2)。
○ 11回目(TEST)の成功率をみてみると、2群は1群と同じ生食投与にも関わらず、1群より成功率が有意に高くなっていた(F-test)。また、11回目(TEST)の2群と3群を比較すると、ナロキソンを用いた3群において、成功率が大幅に低下した(Fig2)。
○ 11回目の成功率を各群、個々にみてみると、2群の中にも成功率が上がる群と上がらない群がみられた(Fig3)。
考察:
動物(Rat)でもプラセボ鎮痛は存在し、今回のようなモルヒネ(オピオイド)を使った実験では、その除痛は内因性オピオイドを介していることが示唆された。また、動物もヒトと同様に、プラセボ鎮痛が効きやすいグループとそうでないグループに分けられる可能性が高い。
コメント
ものを言わない動物に対して、その行動観察から、動物におけるプラセボ鎮痛を証明した非常に興味深いものである。 特に、プラセボに反応しやすい動物、そうでない動物がいるという結果は、今後そのメカニズムの解明が進むことにより、ヒトへの応用が期待されることを示唆している。
ホームページ担当委員:池本 竜則