Topic No.81三叉神経第3枝の外傷性損傷の臨床所見
Profiling of patients presenting with posttraumatic neuropathy of the trigeminal nerve.
Renton T, et al. J Orofac Pain. 2011 Fall;25(4):333-44.
要約
背景/目的:
三叉神経損傷第3枝の損傷は舌神経または下歯槽神経ともに智歯抜去によって生じやすい。患者はdysesthesiaを訴えることが多く、舌神経と下歯槽神経とでは症状が異なる。本研究では、医原性によって生じやすい三叉神経領域すなわち顔面の神経障害の臨床像を調査した。
方法:
イギリスKing’s College Hospitalの口腔外科診療室を受診した三叉神経損傷と診断された患者254名を調査対象とした。第3枝領域のみの検討とし、病歴・症状などの問診と定量的知覚閾値検査は全て同一検者が行った。主観的な病態の聴取に当たっては心理的影響を少なくするために、患者と十分なコミュニケーションをとるように注意した。
結果:
① 舌神経における損傷の原因は智歯抜去が73%、局所麻酔注射は17%であり、下歯槽神経における損傷の原因は智歯抜去が60%、局所麻酔注射は19%であった。
② 患者には女性が多く、受傷から初診までの時間は平均17か月であった。
③ 主症状にはanesthesiaとdysesthesiaが多かった。
④ 舌神経では下歯槽神経に比べて自発痛の発生が多く(p<0.05)、下歯槽神経ではallodyniaとhyperalgesiaが舌神経に比べて多く認められていた(p<0.01)。
⑤ 生活上の支障としては舌神経、下歯槽神経ともに摂食の障害が最も多く(30%)、会話障害は舌神経の方が(p<0.001)、歯磨きや飲水の障害は下歯槽神経が舌神経に比べて有意に多かった(P<0.001, p<0.0001)。
コメント
三叉神経領域においても神経損傷後にニューロパシックペインを訴えることがあり、その中でも神経腫が関与していることが少なくなく、その有無は治療法の決定に大きく影響する。神経障害が発生した場合、神経腫の有無の診断を含めて病態が的確に評価され、さらにそれに連動して治療方針が決定されなければならない。
ホームページ担当委員:瀬尾 憲司