Topic No.89乳がん手術後遷延痛に対するリスク因子の検討
Psychological, surgical and sociodemographic predictors of pain outcomes after breast cancer surgery: a population-based cohort study.
Bruce J, et al. Pain. 2013 Oct 4. doi: 10.1016/j.pain.2013.09.028. [Epub ahead of print]
要約
背景:
乳がん手術後の遷延痛は約半数の女性が術後1-2年経験するとされている。著者らの先行研究では3年後に遷延痛を報告した患者は12年後まで遷延痛があり、生活の質が低下していた。一方、神経障害性疼痛が術後遷延痛の原因となっているかを精査した報告は無かった。乳腺切除術の際の腋窩リンパ節郭清の際の肋間神経の処理、麻酔方法などが原因かもしれない。
方法:
今回、18歳以上の405名の女性、初発の乳がん発症で手術が必要な患者に対して、術後4か月時、9か月時の遷延痛に関する調査を行った。
結果:
術後4ヶ月の時点での遷延痛の存在する患者は、若年、腋窩リンパ節郭清、肋間神経の剥離や損傷、抗癌剤投与がリスクファクターであり、術後1週間で激痛や違和感、しびれ等を訴えていた。
術後9ヶ月後の時点での遷延痛の存在する患者は、若年、肋間神経の剥離や損傷、乳腺切除、腋窩リンパ節郭清、抗癌剤投与がリスクファクターであった。術前の精神的な頑健性が減少していること、リンパ節郭清(Axillary node clearance)、術前の慢性疼痛の存在、安静時の術後疼痛も遷延痛のリスクファクターであった。4分の1の症例で遷延痛を訴え、またその40%が神経障害性疼痛のスクリーニングテストが陽性であった。
また、9ヶ月の時点で若年、急性術後疼痛の存在、リンパ節郭清(Axillary node clearance)が存在すると3倍の遷延痛が認められた。肋間神経の損傷は神経障害性疼痛の直接の発症の原因となりうるが、はっきりとしたリスクファクターとはならなかった。
コメント
術後遷延痛の原因ははっきりしないことが多く、治療方法も確立していない。この研究は術前の状態も調査しており、術前の痛みの存在、精神的な頑健性の低下、若年、急性の術後疼痛が高度であることがリスクファクターであった。また術後遷延痛に神経障害性疼痛が含まれている可能性も示唆している。この様なリスクファクターをもつ患者を手術する際には術後遷延痛に発展する可能性を考慮して治療にあたる必要性がある。
ホームページ担当委員:三木 健司