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2018-12-06

Topic No.108
低ビタミンD血症を合併した低骨密度閉経後女性と腰背部痛の間にある関係について

Association of back pain with hypovitaminosis D in postmenopausal women with low bone mass.
AV Souza e Silva, et al. BMC Musculoskeletal Disorders 2013, 14:184.

 

要約

背景/目的:
腰背部痛は日常診療でも遭遇頻度が高く,現代医療において大きな問題である.腰背部痛は男性よりも特に閉経後の女性でより多く,その中で低ビタミンD(25水酸化ビタミンD)血症の罹患率は比較的高いことが報告されている.ビタミンDの不足はカルシウムの吸収の低下につながり,骨量低下と骨痛の原因なるとされているが,さらにはサルコペニアによる筋肉バランスの歪みや椎体骨折も惹起すると考えられる.また骨代謝を制御するRANK-RANKLなどの系における骨代謝系の炎症性サイトカインにもビタミンDが関与するため,これらが総じて腰背部痛に関連しているとされる.そこで本研究では閉経後女性における低ビタミンD血症と背部痛の関連,および血中ビタミンD濃度の違いによる臥床期間や休業期間,日常生活制限への影響について検討することを目的とした.

方法:
低ビタミンD血症の女性患者と正常女性患者において臥床期間,休職期間,日常生活制限の違いや腰背部痛と低ビタミンD血症の関連を横断的に調査した.本研究のベースラインとなるデータは,低骨密度女性を対象とした既存他施設研究のデータを参照した.患者情報と血漿中ビタミンD濃度,および日常生活の指標としてはNewitt-Cummings質問票(体幹の前後屈の影響や立位・座位保持の影響などの腰痛関連項目調査票)による評価が行われた.

結果:
解析は9354名の対象症例中,全項目が評価可能であった9305名に対して行われた.平均年齢は67歳(60-85歳)であり,平均閉経年齢は49歳(18-72歳)であった.
対象患者の22.5%に低ビタミンD血症が認められ,そのうち15.3%は脊椎椎体骨折を,67.5%は腰痛を罹患しており14.8%は過去6ヶ月での日常生活動作が制限されていた.低ビタミンD血症の患者はそうでない患者と比較し腰痛の割合が高く(69.5% vs 66.9%,p=0.022),背部痛もより有意に多かった(8.5% vs 6.8%,p=0.004).また,日常生活動作にも高度な制限を来していることが多く(17.2% vs 14.0%,p=0.001)椎体骨折率も高かった(17.4% vs 14.6%,p=0.002).
Table:低ビタミンD血症の有無による,腰背部痛と日常生活動作制限の関連
特に過去6ヶ月間での腰痛の有無,腰痛頻度,日常生活の制限などの項目で低ビタミンD血症の群の方が高値を示した.

考察:
加齢による胸椎の後弯増強や腰椎前弯の減少などの変性変化は,腰痛として症状を来しうるため閉経後の特徴的な症状の一つとなり得る.加齢に伴い生じるものとしては他にサルコペニアがありこれも腰痛の原因となり得る.このため日常での動作が減少しさらに筋力も低下するという悪循環に陥ることになる.過去の報告では67.5%の閉経後女性において腰痛がみられると報告され,そのうち3人に1人は腰痛を毎日自覚しているとされ,特に低ビタミンD血症との関連は有意であり,27.1%の閉経後女性は50nmol/L以下の血漿ビタミンD濃度を呈していると報告される.本研究では低ビタミンD血症と腰痛の関連が示唆された.また,ビタミンDは骨代謝におけるRANK-RANKL系も制御し,TNFαやIL-1などの炎症性サイトカインの産生に関与することで破骨細胞の活性化,ひいては骨量の低下なども惹起する.

結論:
低ビタミンD血症は腰痛の発症とその重症度,日常生活への障害に関連していた.ビタミンDの役割は不明な点も多く,今後さらなる追究を要する.

コメント

本論文が示すように近年,骨粗鬆症に伴う筋力低下がもたらすサルコペニアが課題となりつつある.サルコペニアはビタミンD受容体とその働きを含む分子生物学的側面の他,それによるADLの低下がもたらす患者の活動性低下など社会的な側門ももつためより総合的な研究アプローチが必要になってくるものと思われる.本研究のように低ビタミンD血症のもたらす影響を調査した論文は今後重要になってくるであろう.

ホームページ担当委員:折田 純久