Topic No.154子宮がん術後遷延性疼痛に寄与する生物心理的要因
Biopsychosocial predictors of pain among women recovering from surgery for endometrial cancer.
Honerlaw K, et al.
要約
はじめに:
子宮がん術後の創部痛が術後3ヶ月を経ても遷延する患者の割合は25-35%との報告もあり、がん患者のQOL維持のためにも術後遷延性疼痛の機序解明と予防法、治療法解明は重要な課題である。特に子宮頸がんは若年世代に多く、患者の就労問題や出産・妊娠にも関連するため、これら解明の社会的意義も大きい。
術後遷延性疼痛の予測因子としては痛みの破局的思考や術前の抑うつ・不安などの精神心理的因子についての報告が多いが、生物学的要因についての報告はほとんどない。子宮がん切除術を受ける患者を対象に、術後遷延性疼痛に関連する生物心理的要因を前向きに調査した。
方法:
・71人の子宮がんに対する初回手術を受ける患者が参加した。
・がんステージ、腹腔鏡手術と非腹腔鏡手術の術式、化学療法の併用有無は問わず、統計解析で調整した。
・術後1週間、4週間、16週間の3時点において、創部の痛みをNRSとADL支障度の2点で評価した。
・精神心理的要因として、抑うつ、不安、日常生活への煩わしさ、日常生活の低活動度を3時点で評価した。
・生物学的要因として、炎症関連サイトカイン(IL-6, IL-8, IL-10, TNF-α)を血液から3時点で計測した。
結果:
・中等度以上の疼痛を訴えた患者の割合は、術後1週間(26.2%)、4週間(12.9%)、16週間(15.4%)であった。
・痛みによるADL障害を訴えた患者の割合は、術後1週間(47.7%)、4週間(15.7%)、16週間(16.9%)であった。
・個々の生物心理的要因の中では抑うつ、不安が痛みの強さと相関していた以外に、炎症性サイトカインのIL-6も関連していた。
まとめ:
これまでの報告と同様に、抑うつ・不安は術後遷延性疼痛に影響を与えるが、生物学的要因として炎症性サイトカインIL-6の関連が明らかになった。
コメント
・術後遷延性疼痛のような慢性疼痛を生物心理社会的要因で説明することの妥当性が示されたと言えるが、生物学的要因が明らかにされたため予防のための計測系開発や治療法開発の基盤になり得る。
・術後遷延性疼痛は時間経過とともに漸減する訳では無く、術後4週間よりも16週間のほうが罹患率が高かった。時間経過による変化とその要因の探索が、今後必要である。
ホームページ担当委員:住谷 昌彦