Topic No.47実験的疼痛評価におけるVAS(Visual Analog Scale)の信頼性欠如:感受性と誘発電位研究
Unreliability of the visual analog scale in experimental pain assessment: a sensitivity and evoked potentials study.
Kemp J et al. Pain Physician. 15(5) 2012.
要約
背景/目的:
痛みは主観的な体験であり実験的な痛みであっても客観的評価をすることは困難である。VASは痛みの評価に頻用されるが、その信頼性については疑問視されてきた。「痛みなし」から「最悪の痛み」までの痛みのVASについて、対象者が基準点を誤って解釈しているかどうか実験的な痛みで評価した。
方法:
40人の健康なボランティアを対象にした。2連続のセッションで高出力(痛みを伴う)、低出力(痛みを伴わない)熱レーザー刺激が加えられたときの対象者の評価について2つのVAS(痛みのVASと不快さのVAS)を解析した。
また同時に体性感覚誘発電位(SEPs)も記録した。これらの心理的測定(VAS)と熱刺激によって引き起こされた特定のSEPsコンポーネントの関連性について調べた。
結果:
対象者に低出力の熱レーザー刺激を与えると、痛みのVASでは「痛い」と評価され、不快さのVASでは「心地良い」と評価された。誘発電位から見ると低出力熱刺激はC線維を活性化しており(潜時が750-1200msで伝導速度からC線維と考えられる)、痛みを伴わない温かい感覚を引き起こしていると考えられた。また低出力刺激ではAδ線維の活性化は伴わなかった。SEPは痛みのVASよりも不快さのVASを反映しているものと考えられた。
コメント
痛みの客観的評価は疼痛研究の中心的課題であり、未だに解決されていない。本実験は臨床的に古典的に用いられている痛みのVASは信頼できるものであるかについて合理的な疑問を投げかけている。ただ、この実験ではSEPはCzを基準にしており、いわゆるVertex potentialであるため、主として前部帯状回の活動を反映しているものと思われる。そうなると、情動面で不快さを指標にした方が痛みよりも一致しやすいということも頷ける。今後の研究ではこのような側面からも痛みの評価を行うことが求められるだろう。
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