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2018-12-06

Topic No.101
幻肢痛に対するミラーセラピー:脳の変化と身体表象の役割

Mirror therapy for phantom limb pain: Brain changes and the role of body representation.
Foell J, et al. Eur J Pain Dec 10. 2013,

 

要約

背景/目的:
幻肢痛の治療として,ミラーセラピーが有効であることが非常に多く報告されている.しかし,ミラーセラピーがもたらす幻肢痛への効果に関する神経メカニズムはまだ明らかではない.また,ミラーセラピーの効果が得られやすい個人的な因子も明らかではない.本研究では,fMRIを用いてこれらを明らかにすることを目的としている.

方法:
慢性期における片側上肢切断後の幻肢痛患者13名を対象とした(罹患期間:平均21.3年).
ミラーセラピーは4週間実施した.なお,介入前の2週間をベースラインとして,介入後の2週間をフォローアップ期間とした. ミラーセラピーは,手の開閉運動,手指のストレッチング,前腕の回内外,親指と他の指を順番に合わせる運動,指のトレーシングの5種類の運動とした.どの運動においても,残存した側の手を動かし,鏡に映る手を注視して,幻肢が動いたような錯覚が生じるように設定した.ミラーセラピーは1日15分間実施された(1種類5分間ずつ).
fMRIの測定は,4週間のミラーセラピー期間の開始時と終了時に実施した.fMRIでは,鏡に映った健手の開閉運動を見ながら幻肢の運動を明確にイメージする課題中(ミラーセラピー課題)の脳活動と,口唇をすぼめる運動時の脳活動を計測した.

結果:
ミラーセラピーによって有意な幻肢痛の改善が認められた(平均27%の軽減).
4週間のミラーセラピー治療後では,幻肢痛の軽減に伴って,ミラーセラピー課題中における下頭頂葉(inferior parietal cortex : IPC)の活動の減少が認められた(図).
また,口唇をすぼめる運動によって活動する一次体性感覚野(primary somatosensory cortex)の口唇領域のシフトが改善した. さらに,幻肢痛の改善程度の個人差を調べたところ,治療前からテレスコーピング現象が認められた者は,ミラーセラピーの効果が得られにくかった.

考察:
本研究では,慢性期の幻肢痛であってもミラーセラピーは中等度の効果があることが示された.幻肢痛の軽減に伴って活動が減少した下頭頂葉は,身体主体感の損失を感じると活動する脳領域である同時に,痛みを感じた時に活動する脳領域でもあることが報告されている.このことから,今回のミラーセラピーによる下頭頂葉の活動の減少は,身体主体感の改善や痛みの軽減によって認められたことが示唆された.
一方,テレスコーピング現象が認められたものに関しては,ミラーセラピーによる効果は認められなかった.このような者に対しては,ミラーセラピーで仮想的に幻肢を動かすような介入よりも,バーチャルリアリティシステムなどを利用して,変容した幻肢の身体イメージと視覚フィードバックをフィットさせるような介入が有効であることが示唆された.

コメント

ミラーセラピーの効果が得られにくい症例はしばしば経験する.そのような症例の特徴を明らかにしていくことの臨床的意義は非常に大きいと感じる.症例の個々の病態にフィットした介入ができるようにするための基礎および臨床研究が必要であると感じた.

ホームページ担当委員:大住 倫弘