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2018-12-07

Topic No.118
慢性筋痛における単球走化性タンパク質の役割

Role for monocyte chemoattractant protein-1 in the induction of chronic muscle pain in the rat.
Alvarez P. et al. Pain. 2014 Jun;155(6):1161-1167

 

要約

背景/目的:
単球走化性タンパク質(Monocyte chemoattractant protein:MCP-1)はケモカインの一種であり、線維筋痛症患者やリウマチ性多発筋痛症患者の血清中に検出されることがよく知られている。また近年、MCP-1を真皮内に注射すると機械刺激に対する痛覚過敏が生じることやC線維の興奮性を高めることが報告されており、加えて、持続的な心理的ストレスに暴露された女性の血清中の濃度が高まることも報告されている。これらのことから、筋痛の発生にはMCP-1が関与していると推察され、本研究では急性および慢性の筋痛におけるMCP-1の役割について検討した。

対象/方法:
・実験1
ラットリコンビナント(rr)MCP-1(1・10・100・1000 ng/ 20 μL)を雄性SDラットの腓腹筋内に投与し、投与前および投与後42日目まで腓腹筋の圧痛覚閾値を評価した。そして、全てのラットの圧痛覚閾値が回復した後に、rrMCP-1を投与した部位にPGE2を投与して、圧痛閾値の変化を評価した。
また、DRGにおけるイソレクチンB4陽性細胞を破壊するために、くも膜下腔にサポリン-IB4複合体(サイトトキシン)を投与して、rrMCP-1投与後の腓腹筋の圧痛覚閾値の変化を評価した。

・実験2
拘束浸水ストレスを負荷して筋痛を惹起するモデルラットを作成し、サポリン-IB4複合体投与群と非投与群に分けて腓腹筋の圧痛覚閾値を評価した。また、同様のモデルラットに対してMCP-1の受容体であるCCR2に対するアンチセンスOligodeoxynucleotide(CCR2 AS)またはミスマッチアンチセンスOligodeoxynucleotide(CCR2 MM)をくも膜下腔に投与して腓腹筋の圧痛覚閾値を評価した。 。

結果:
○ 腓腹筋内にrrMCP-1を投与すると、投与15分後から投与量依存的に圧痛覚閾値の低下が認められ、投与前と同程度の圧痛覚閾値まで回復したのは投与後28日目(1・10 ng/ 20 μL)または42日目(100・1000 ng/ 20 μL)であった。
○ 圧痛覚閾値が回復した後に投与部位にPGE2を投与すると、rrMCP-1の投与量にかかわらず同程度の圧痛覚閾値の低下が認められた。非rrMCP-1投与ラットではPGE2投与後4時間で圧痛覚閾値が回復したが、rrMCP-1投与ラットでは72時間後も痛覚閾値が低下したままであった。
○ rrMCP-1投与による圧痛覚閾値の低下はサポリン-IB4複合体を投与したラットでは認められず、PGE2投与による圧痛覚閾値の低下は早期に回復していた。
○ サポリン-IB4複合体非投与群では浸水拘束ストレ負荷後に圧痛覚閾値の低下が認められたのに対して、サポリン-IB4複合体投与群では痛覚閾値の低下は認められなかった。また、PGE2投与後の痛覚閾値の低下はサポリン-IB4複合体非投与群では投与後72時間後まで低下したままであったが、投与群では4時間後には回復していた。
○ CCR2 ASを投与したラットにおける浸水拘束ストレス負荷後の痛覚閾値の低下は、CCR2 MMを投与したラットと比べて有意に抑制されていた。また、CCR2 ASを投与したラットではrrMCP-1の投与による痛覚閾値の低下も有意に抑制されていた。

考察:
今回の結果から、MCP-1が骨格筋の痛覚閾値の低下や他のalgogenに対する感受性の亢進を惹起することが明らかになり、これにはIB4(+)のC線維が関与していると推察される。また、ストレスモデルにおける骨格筋の圧痛覚閾値の低下にも関与していたことから、慢性の筋痛症にも関与していると考えられる。

コメント

線維筋痛症やリウマチ性多発筋痛症慢性の患者のみならず慢性の骨格筋の痛みを有する患者は非常に多いが、その病態やメカニズムについては十分に明らかにされていない。また、単に四肢の不動によっても筋痛が生じることも明らかにされているが、その病態メカニズムについても十分には明らかにされていない。本研究は組織損傷がなくともMCP-1が筋痛に関与している点で非常に興味深い。

ホームページ担当委員:坂本 淳哉