Topic No.183慢性筋骨格系疼痛の予防には座位時間をどの強度の活動時間に置き換えればよいのか:isotemporal substitution analysisによる検討
The association between displacement of sedentary time and chronic musculoskeletal pain: an isotemporal substitution analysis
Cormac G. Ryan et al. Physiotherapy. 2017; 103(4): 471-477
要約
はじめに:
身体活動量と筋骨格系の慢性痛 chronic musculoskeletal pain(CMP)には関連があり、これまでの研究からは身体活動がCMPの予防やマネジメントに一定の効果があることは示されている。しかし、どのような身体活動(頻度、強度、時間、種類)を行うべきかについてはほとんどエビデンスがない。本研究では、isotemporal substitution analysisを用いて、座位時間を低強度の身体活動時間 light physical activity(LPA)または中高強度の身体活動時間 moderate-to-vigorous physical activity(MVPA)に置き換えたときのCMPの有訴率の変化を検討する。
方法:
2008年に実施されたHealth Survey for England(イングランドで無作為に抽出された16056名を対象に行われた健康調査)のデータから、活動量計を使用して身体活動量を計測している16歳以上の対象者のうち、寝たきりとなっていない者を対象に二次的に解析を行った。CMPの定義は国際疾病分類 International Classification of Disease(ICD)で筋骨格系疾患に含まれる疾患を長期間有し、かつ、痛みを有する者とした。身体活動は活動量計(The ActigraphTM (model GT1M))を用いて、座位時間(0 to 199 counts-per-minutes(cpm))、LPA(200 to 2019 cpm)、MVPA(≥2020 cpm)に分類した。isotemporal substitution analysisによって、10分間の座位時間を10分間のLPA、MVPAに置き換えた際のCMPの有訴率のオッズ比を算出した。また、30分間の座位時間を同時間のMVPAに置き換えた際のCMPの有訴率のオッズ比を算出した。
結果:
解析対象となったのは2313名(平均52±18歳、女性55%)でCMPの有訴率は17%であった。10分間の座位時間を活動時間に置き換えた際のCMPの有訴率のオッズ比はLPAで0.99(95%信頼区間: 0.97-1.01)、MVPAで0.76(0.70-0.84)であった。調整済みオッズ比はLPAで1.01(0.99-1.02)、MVPAで0.89(0.82-0.96)であった。また、30分間の座位時間をMVPAに置き換えた場合のCMPの有訴率のオッズ比は0.71(0.55-0.88)であった。
結論:
10分間の座位時間を同時間のMVPAに置き換えることは1割程度CMPの有訴率を下げることが期待できる。一方で、LPAに置き換えることではCMPの有訴率を減らす効果はみられなかった。
コメント
本研究でのMVPAは他の文献を参考にするとおおよそ4METs以上の強度の運動を指すと考えられる。本研究は身体活動量の強度を活動量計で測定しているため、客観性を担保している反面、自転車や水泳といった活動が反映されていない限界がある。また、横断研究である点やMVPAのカットオフを年齢ごとに変更する必要性などを考慮すると本研究のみで判断はできないが、健常者が筋骨格系の慢性痛を予防するうえではただ単に座位時間を減らすだけではなく、ある程度の強度を伴った身体活動、運動へ置き換える必要がある可能性が示唆される。
ホームページ担当委員:下 和弘