Topic No.122慢性腰痛に対する集学的な生物心理社会的リハビリテーション
Multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation for chronic low back pain.
Kamper SJ, et al. Cochrane Database Systematic Review, 2014
要約
背景/目的:
腰痛により世界中で多くの人が苦しんでいる。腰痛にかかる医療費は膨大となり、休職等による生産性の低下も大きい。慢性腰痛に対して多くの治療法があるが、広く認められているものはない。慢性腰痛は、身体、心理、社会的な影響の相互作用を受けている状態、いわゆる”生物心理社会モデル biopsychosocial model”であるという考えが広まっている。そして、異なったバックグラウンドを持つ専門家からなる”学際的生物心理社会リハビリテーション multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation(MBR)”プログラムが発展してきている。
この研究の目的は、慢性腰痛に対するMBRの効果のエビデンスをレビューすることである。
対象/方法:
2014年1月から3月まで、MEDLINE等のデータベースとその参考論文リストから論文を探した。全ての論文は二人の著者により別々に調査された。研究に含めるかどうか一致しなかった研究は意見を一致させた。研究に含める基準は、12週間以上続く非特異的腰痛に関するRCTで、調査項目は身体、心理、社会もしくは就業に関するうち最低2つ以上あるものとした。
主要評価項目は、痛み、障害、就業状況で、短期、中期、長期に分けた。副次評価項目は、心理検査(うつ、不安、破局化思考)、医療機関受診(頻度)、QOL、副作用とした。コントロール群は、通常のケア、身体的リハビリテーション、(外科手術、待機患者)とした。エビデンスの評価にはGRADEシステムを用いた。
結果:
6168の研究のうち41がRCTであった。痛みと障害に関して16のRCTで、MBRと通常のケアとの比較では、MBRの方が効果的であったが、standard mean difference(標準化平均差: SMDs)は0.21(95%CI 0.04. to 0.37)と、0.23(95%CI(0.06 to 0.04)であった。
0~10で評価するNRSに置き換えるとは0.5~1.4の差になる。0~24のRMDQでは1.4~2.5であった。就業状況には差がなかった。19のRCTでMBRと身体的リハビリテーションとの比較では、中等度から低レベルの質ではあるがMBRは身体的リハビリテーションよりも有効であった(SMDs:0.51(95%CI -0.01 to 1.04), 0.68 95%CI 0.16 to 1.19)。就業状況については、長期でみると、MBRの方が有効で、OR 1.87(95%CI 1.39-2.53)であった。副作用についてはエビデンスが不十分であった。
まとめ:
MBRは通常のケアや、身体的リハビリテーションに比べて、より有効であるが、その程度はそれほど大きくない。MBRは、従来の治療が無効である患者には大切である。MBRにはコストと時間がかかるので、特に重症な症例や複雑な症例で適応となると考える。
コメント
MBRについての有用性は明らかであるが、今後は、コストの計算が必要である。慢性痛により失われるコストの計算は難しいが、費用対効果を示すためには必須の研究になろう。また、拠点にMBRを配置するという考え方も合理的に思える。
ホームページ担当委員:西江 宏行