Topic No.44慢性腰痛を有効に治療すると、慢性疼痛に伴う異常な脳の構造変化が回復、正常化する
Effective Treatment of Chronic Low Back Pain in Humans Reverses Abnormal Brain Anatomy and Function.
Seminowicz DA, et al. J Neurosci. 2011 May 18;31(20):7540-50.
要約
慢性腰痛(CLBP)に伴う脳の灰白質量の低下が改善可能であるかどうか、それが治療結果に関係するかどうか、MRIを用いて、治療前後で検討した。
方法:
対象は痛みの強さがNRSで 4以上、1年以上痛みが持続したCLBP患者18例とした。
治療前と治療6ヶ月後(6ヶ月治療後群、n=14)、健常対照者16例と患者を比較し、MRIを用いて、脳の灰白質量の低下が改善可能であるかどうか、それが治療結果に関係するかどうか調べた。除外基準は、精神障害、18歳未満、65歳以上とした。CLBPの治療法は、脊椎手術(8例)又は椎間関節ブロック法(6例)のいずれかとした。灰白質の密度とは違って、皮質の厚さは、複数の研究の間で比較できる定量的な尺度であると考えた。
結果:
CLBP患者では、健常対照者と比較して、治療前では、左背外側前頭前野(DLPFC)、両側の前部島皮質、左中央部/後部島皮質、左S1、左内側側頭葉、ならびに右前帯状皮質(ACC)、など複数の脳領域で皮質の厚さが有意に低下していた。
治療後には、左背外側前頭前野(DLPFC)の皮質の厚さが増加し、対照群との有意差がなくなっていた。
DLPFCの厚さの増加は、痛みの軽減と身体機能障害の改善の両方と相関関係を認めた。右前部島皮質(aINS)の厚さの増加は、痛みの軽減と相関関係があった。また一次運動皮質(M1)の厚さの増加は、身体機能障害の改善と相関関係があった。
考察:
CLBP患者では背外側前頭前野(DLPFC)、視床、脳幹、一次体性感覚皮質(S1)、ならびに後頭頂葉の灰白質量の低下していることが示されている。DLPFCは、プラセボ鎮痛、痛みのコントロール感覚ならびに痛みに対する破局化思考と関係があると考えられている。慢性腰痛が生じると左DLPFCの皮質が薄くなり、痛みを緩和させることで、左DLPFCの皮質が厚くなり、正常に戻ることを示した。左DLPFC、右前部島皮質、一次運動皮質における皮質の厚さの回復の程度は、治療後の患者の改善の程度と相関することを示した。 本研究により、慢性腰痛に伴う異常な脳の構造変化は、慢性疼痛を治療することで、回復、正常化されることが示唆された。
コメント
慢性疲労症候群患者で認知行動療法を実施すると、DLPFCの灰白質の量が増加し、その構造変化は、認知能力の改善と正の相関関係にあることが報告されている。 今回の研究のように、慢性疼痛に対する身体的治療だけではなく、難治性慢性腰痛の心理社会的な問題にターゲットをおいた認知行動療法によって、皮質の厚さが同様に回復するのか今後の研究で調べることが重要である。 難治性慢性疼痛に関与する破局化思考などの心理的パラメーターの変化と皮質の厚さの変化の関連わかれば、クオリティーオブライフ(QOL)を高めることに重点を置いた難治性慢性疼痛に対する学際的治療法の臨床的意義がクリアになってくると考えられる。
ホームページ担当委員:福井 聖