Topic No.133理学療法士は認知行動療法に基づいたペインコーピングスキル習得プログラムを患者に提供することが可能か?
Can physical therapists deliver a pain coping skills program? An examination of training process and outcomes.
Bryant C, et al. Phys Ther. 2014 Oct;94(10):1443-54.
要約
背景/目的:
近年、生物心理社会的アプローチに基づいた医療の提供が推奨されている。変形性膝関節症(膝OA)のような痛みや機能障害を呈する疾患の理学療法に対しても、身体的および心理的社会的要因を統合して対処することが求められる。しかし、理学療法士が心理社会的要因へ適切に対処するための方法論についてはこれまでほとんど議論がなかった。本研究の目的は、理学療法士が標準化されたペインコーピングスキル習得プログラムを患者に提供できるようにトレーニングを実施し、そのトレーニングの効果を評価することとした。
方法:
この研究は膝OAを対象としたRCTの一環として行われており、11名の理学療法士に対して、ペインコーピングスキル習得プログラムを提供できるようにトレーニングを実施した。トレーニングは臨床心理士によって行われ、3日ないし4日の集中的なワークショップと、その後2週間毎の継続的なチュートリアルが行われた。プログラム遂行のアドヒアランス、プログラム提供のパフォーマンス、理学療法士のスキルは、理学療法士が行う介入(ペインコーピングスキル習得プログラム)を全体の10%録音し、それを臨床心理士が評価した。
結果:
プログラム遂行のアドヒアランスは96.6%であり、プログラム提供のパフォーマンスおよび理学療法士のスキルの平均は十分満足できるレベルで、理学療法士はペインコーピングスキル習得プログラムを患者に非常に高い水準で提供できた。さらに、この結果は介入期間を通して維持されていた。
コメント
本研究の限界点として、研究に参加した理学療法士は自ら希望して参加した点が述べられている。本研究におけるトレーニングの成果は、モチベーションの高い理学療法士の参加や、臨床心理士が非常に多くの時間を費やしてトレーニングを行ったことが影響しているであろう。また、理学療法士によるペインコーピングスキル習得プログラムの効果(患者の治療成績)については、現在検証中とのことであり、成果の報告が待たれる。痛み治療における認知行動療法は、その必要性が知られる一方で、標準化された方法の確立や認知行動療法を提供できる臨床心理士が患者の数に比して少ないことが課題となっている。本研究で示されている1セッション45分、全10セッションの標準化されたプログラムや、それを理学療法士によって提供するための試みは日本の痛み治療においても参考になると考える。多くの治療者が、治療の一手段として認知行動療法を実践できるようになるためのシステム作りが期待される。
ホームページ担当委員:下 和弘