Topic No.88脊髄損傷患者の急性期神経障害性疼痛に対するケタミンの効果
Ketamine for acute neuropathic pain in patients with spinal cord injury.
Kim K, et al. J Clin Neurosci. 2013 Jun;20(6):804-7.
要約
慢脊髄損傷患者の急性期神経障害性疼痛に対してのケタミン投与は有効である。投与の有効性を予想するにはケタミンチャレンジテストが推奨され、投与方法としては経静脈よりも経口投与の方がよい。(日本)
方法:
脊髄損傷による急性期神経障害性疼痛の患者13名(36―81歳:平均60歳)を対象とした。全員がASIA Dであり11名は保存治療、1名は拡大術、1名は頚椎前方固定が実施された。
受傷後数日間はNSAIDS、ガバペンチン、三環系抗うつ薬にて治療し、VAS5以上の痛みが残存した上記13名に対してケタミン投与を行った。最初にケタミンチャレンジテストとして5mgを経静脈投与し、直後に痛みが50%以上軽減した場合を有効としてケタミン投与を継続した。投与期間は平均10.3日、フォローアップは平均14.3カ月であった。
結果:
ケタミンチャレンジテストにて13名全員が50%以上の軽減が得られた(平均79%の軽減)。ケタミン投与により、終了時点で74.7%の痛みの軽減が得られ、最終経過観察時には96.8%の軽減が得られていた。ケタミン投与終了時には全員多少の痛みが残存していたが、最終時には8名において痛みが消失していた。
合併症として浮遊感が1名に強く、3名に弱く出現した。
コメント
本研究はいわゆるCase Seriesであり比較対照群が設定されていないため、エビデンスとしては高くはない。しかし脊髄損傷後の慢性期患者の多くが強い痛みに長期間にわたり悩まされている現実から推測すると、ケタミンによる急性期の疼痛コントロールの有効と思われる。過去に脊髄損傷後疼痛に対するケタミン投与についての論文はいくつかあるが、その多くは長期間の投与を受けており、本研究の如く急性期の短期間の投与で、長期にわたり痛みが抑制されている点は特筆すべきである。しかし、本研究では麻痺のレベルがASIA Dの比較的軽症の患者群のみが扱われており、より重症の麻痺のある群での有効性については明らかにされていないという問題が残る。
ホームページ担当委員:原 慶宏