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2018-12-06

Topic No.106
腱板損傷患者の肩の痛みの強さと分布状況に関する実態調査

Intensity and distribution of shoulder pain in patients with different sized postero-superior rotator cuff tears
Gumina S. et al. Ann Behav Med. J Shoulder Elbow Surg. 2013 Dec 27[Epub ahead of print]

要約

背景/目的:
腱板損傷に関する研究の大部分は疾病の原因と治療方法に焦点があてられているが、肩の痛みの強さや分布状況に関する調査研究はほとんど存在しない。本研究では,腱板損傷患者における肩の痛みの強さと分布状況を検討した。

方法:
対象は後上方腱板の完全断裂に対して関節鏡下での修復術が施行された285名。痛みの分布については術前に上肢身体図を用いて痛みが存在する部位を患者自身にマッピングしてもらい,痛みの強さについてはVASにて評価した。痛みの強さは①性別、②左右の肩関節、③損傷の程度(small、moderate、large、massive)、④年齢(55歳以下、56~64歳、65歳 以上)、⑤痛みの持続期間(6カ月以上or未満)について比較検討した。また、痛みの分布については、損傷の程度による分布状況の違いについて検討した。

結果:
○ 痛みの強さについては性別(男性:5.1、女性:5.6)、損傷の程度(small:5.5、large:5.7、massive:4.9)で有意差を認め,女性は男性に比べて高値で損傷が広範な対象者は損傷が限局されている対象者に比べて低値であった。左右、年齢、痛みの持続期間については有意差を認めなかった。
○ 対象者の86%(247名)において,上腕や肘関節外側に放射する肩関節の前外側の痛みを認めた。一方、14%(38名)では前腕より遠位にも痛みが存在し、これらの対象者の痛みの程度は他の対象者に比べて有意に高値(5.3 vs 5.7)であった。
○ 損傷部位が広範(massive)な対象者では、痛みが多くの皮膚分節に広がっており、特に、C7~T1では有意に高値であった。

考察:
腱板損傷患者の痛みの強さは女性や分布状況は性別や損傷の程度よって特徴付けられることが明らかになった。特に、損傷部位が広範な患者では痛みの強さは低値であったが、より広い皮膚分節に分布していた。これには損傷部位が広範な場合には自由神経終末を豊富に有する肩峰下滑液包が萎縮していることと、損傷部位が2つ以上の回旋筋の腱におよぶため髄節レベルがことなる複数の支配神経が関与する可能性が考えられる。また、肘関節より遠位に痛みを有する患者では痛みが強いことが明らかになった。

コメント

臨床上、腱板損傷患者の痛みは関節可動域制限に原因にもなり、再建術後のADLにも大きな影響をおよぼす要因であるが、その実態を調査した研究はこれまでほとんどなく、腱板損傷患者の痛みの実態を調査した本研究は興味深い。特に、肘関節より遠位に痛みを有する患者では痛みが強いことが明らかにされており、その病態を検討するためにも再建術前後の痛みの実態調査が必要であると考える。

ホームページ担当委員:坂本 淳哉