Topic No.128超音波照射は末梢神経損傷モデルラットの神経障害性疼痛とサブスタンスPおよびニューロキニン受容体の発現を抑制する
Therapeutic ultrasound suppresses neuropathic pain and upregulation of substance p and neurokinin-1 receptor in rats after peripheral nerve injury.
Chen YW, et al. Ultrasound Med Biol. 2015 Jan;41(1):143-150.
要約
背景/目的:
物理療法の一つである超音波は,末梢神経損傷に対して治療効果があるとされている.これまでに坐骨神経結紮(CCI)モデルラットや挫滅モデルラットの神経再生や機能回復を促進することが報告されている.一方,CCIモデルラットなどの末梢神経損傷後には,脊髄や神経節内での炎症性サイトカインの発現増加とともに,神経障害性疼痛が発生することがよく知られている.しかし,神経障害性疼痛に対する超音波の効果について検討した報告は見あたらない.そこで本研究では, CCIモデルラットの神経障害性疼痛に対する超音波の効果を検討した.
対象/方法:
・ラットを以下の6つのグループに振り分けた.
1)対照群
2)CCIのみを行う群(CCI群)
3)CCI後,模擬の超音波照射を行う群(CCI+TU-0群)
4)CCI後,0.25 W/cm2の強度で超音波照射を行う群(CCI+TU-0.25群)
5)CCI後,0.5 W/cm2の強度で超音波照射を行う群(CCI+TU-0.5群)
6)CCI後,1.0 W/cm2の強度で超音波照射を行う群(CCI+TU-1群)
・超音波照射は,CCI後5日目から毎日5分間,大腿中央部に対して移動法で行った.周波数は1MHz,照射サイクルは100%.
・実験期間中は,機械的刺激に対する痛覚閾値,熱刺激に対する痛覚閾値を1週間ごとに測定した.
・CCI後14日目と28日目に,各群のラットの坐骨神経を摘出し,TNF-α,IL-6,サブスタンスP,ニューロキニン-1受容体をELISA法で測定した.
結果:
・対照群以外のすべての群において,機械的刺激および熱刺激に対する痛覚閾値はCCI後7日目から有意に低下し,神経障害性疼痛の発生を認めた.
・機械的刺激および熱刺激に対する痛覚閾値は,CCI群に比べCCI+TU-1群が有意に高値を示し,その傾向はCCI後7日目からCCI後28日まで持続して認められた.しかし,CCI+TU-0.25群およびCCI+TU-0.5群はCCI群と変わらなかった.
・CCI後14日目と28日目のTNF-α,IL-6,サブスタンスP,ニューロキニン-1受容体は,すべてCCI群に比べCCI+TU-1群が有意に低値を示した.
結論:
高強度の超音波照射は,末梢神経損傷後の炎症性サイトカインの発現を抑制し,神経障害性疼痛を和らげる効果が示唆された.
コメント
本研究では,超音波照射をCCI後5日目から開始している.これは,神経障害性疼痛が発生した後,超音波照射による治療効果が得られるかどうかを検討するという意図である.結果,最大の照射強度(1.0 W/cm2)のみで,痛覚閾値の上昇と炎症性サイトカインの減少が認められている.ただ,照射期間を延長しても更なる改善は認めておらず,痛覚閾値の推移は横ばいである.この結果からは,末梢神経損傷(CCI)後の炎症が超音波照射により抑制され,または早期に鎮静し,神経障害性疼痛の発生が軽度に抑えられたように読み取れる.つまり,本研究の結果は治療効果というよりはむしろ予防効果を示すものであり,神経に対する超音波の特異的な効果ではなく,炎症に対する効果に由来すると捉えるのが妥当である.治療効果なのか予防効果なのかという点について筆者は言及していないが,臨床に応用する上では重要である.いずれにせよ,神経障害性疼痛に対する物理療法の効果を検討した数少ない報告であり,今後の発展に期待したい.
ホームページ担当委員:中野 治郎