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2018-11-30

Topic No.64
運動習慣と慢性痛の関連性:前向き大規模コホート研究(HUNT)による検討

Associations between recreational exercise and chronic pain in the general population: evidence from the HUNT 3 study.
Landmark T, et al. Pain. 2011 152, Oct;152; 2241-2247.

要約

ノルウェー国民94,194人を対象とした前向き大規模コホート研究により,運動習慣と慢性痛の出現頻度,持続時間,強度の関係について検討した.

方法:
前向き大規模コホート研究(Nord-Trondelag Health Study:HUNT)は3回にわたり(1回目1985-1987年,2回目1995-1997年,3回目2006-2008年),郵送による質問表を用いて行われた.
調査対象はノルウェー国民94,194人で,そのうちすべての調査内容の回答が得られた46,533人(回答率:女性58.5%,男性49.8%)のデータを用いて解析が行われた.
主な調査内容は,慢性痛(6ヶ月以上)の有無と程度,運動習慣の有無と頻度,強度,期間であった.
その他,疾患,仕事,喫煙,教育レベルに関する情報も調査され,2回目の調査ではHADSの質問票も含まれた.

結果:
● 慢性痛の発生頻度
6ヶ月以上継続した慢性痛の発生頻度は全体の39%,そのうち29%は中等度以上の慢性痛であった.非喫煙者の慢性痛の発生頻度は,喫煙者(元喫煙者を含む)のそれにくらべて約10%低かった.また,うつ傾向がある者(HADSで高得点)の者や1つ以上の器官に疾病を有する者における慢性痛の発生頻度は,そうでない者の2倍にも達した.運動習慣がない者(非運動者)において,慢性痛の発生頻度は加齢,喫煙,うつ傾向,疾病の有無に準拠して高値を示し,教育レベルが低いほど高値を示した.

● 運動習慣と慢性痛の関係
運動頻度に注目すると,20~64歳で運動を週2-3回行う者の慢性痛の発生頻度は,非運動者にくらべて10%低かった.しかしながら,運動を週4回以上行う者の発生頻度は非運動者と同等であった.対照的に,65歳以上の高齢者においては,運動頻度が高いほど慢性痛の発生頻度は低かった.
次に運動強度に注目すると,年齢,性別に関係なく運動強度が高いものほど慢性痛の発生頻度は低かった.また,運動の継続時間に関しても運動強度と同じ傾向が認められ、これらの傾向は20~64歳より65歳以上の高齢者において明確であった.

コメント

これまでの横断的調査でも慢性痛に対する運動の効果は示されてきたが,今回の縦断的調査により,特に高齢者において運動習慣は慢性痛の予防手段として有効であることが明らかとなった.運動習慣による慢性痛の予防効果は男性より女性の方が得られやすいことは大変興味深い.運動のやり過ぎは身体にダメージを及ぼす可能性はあるが,今回の結果から考えると高齢者が毎日行うような運動は,身体の許容範囲を超えることはないようである.高齢者社会が進む今日,慢性痛に対する運動の効果とその潜在的効果(経済を含む)を伝えていくことが極めて重要になる.

ホームページ担当委員:中野 治郎