Topic No.125遷延性術後痛モデルラットに対するトレッドミル走行は機械的痛覚閾値の低下とDRGにおけるSP、IL-6の発現を低下させる
Forced Treadmill Running Suppresses Postincisional Pain and Inhibits Upregulation of Substance P and Cytokines in Rat Dorsal Root Ganglion.
Chen YW. et al. J Pain. 15(8):827-34, 2014.
要約
背景/目的:
開胸術後などに認められる術後遷延痛に対する効果的な介入方法を検討するため、今回、術後遷延痛モデルであるSMIR(Skin/muscle incision and retraction)モデルを用いて、強制トレッドミル走行が術後の機械的痛覚閾値やDRGにおけるSP、IL-1β、IL-6におよぼす影響について検討した。
対象/方法:
○ SD系雄性ラット112匹を、①Sham operated sedentary(SO-S)群、②SMIR+自然飼育(SMIR-S)群、③Sham+強制トレッドミル走行(SO-FTR)群、④SMIR+強制トレッドミル走行(SMIR-FTR)群に振り分けた。SMIRは左後枝大腿部の皮膚と内転筋筋膜を切開後、開創器を用いて創部を1時間開いた状態で固定した後に創部を縫合することで行った。
○ 強制トレッドミル走行は術後8日目より1日55分間(18m/min)の条件で4週間実施した。
○ 術後6・14・21・28・35日目に6・15gのvon Frey Filamentを用いて左足底部を10回刺激した際の逃避反応の出現回数をカウントした。
○ 術後14・28日目にDRGを摘出し、ウエスタンブロッティング法にてSPを、ELIZA法にてIL-1β、IL-6の発現量を検索した。
結果:
○ 擬似処置を行ったSO-S群とSO-FTR群の逃避反応の出現回数は実験期間を通じてベースラインとの間に変化はみられず、この2群間にも有意差は認められなかった。
○ SMIR-S群の逃避反応の出現回数は実験期間を通じてSO-S群と比べて有意に高値を示した。一方、SMIR-FTR群のそれは術後28日目まではSO-S群より有意に高値であったが、35日目にはSO-S群との間に有意差は認められなかった。。
○ SMIR-S群とSMIR-FTR群の逃避反応の出現回数を比較すると、6gでは術後28日目から、15gでは21日目からSMIR-FTR群が有意に低値を示した。
○ 術後14日目におけるSP、IL-1β、IL-6発現量はSMIR-FTR群とSMIR-S群の間に有意差を認めなかったが、術後28日目ではSMIR-FTR群はSMIR-S群に比べて有意に低値であった。
考察:
今回の結果から、SMIRラットにおいて強制トレッドミル走行を行うことで術後の痛覚閾値が早期に低下し、DRGにおけるSP、IL-1β、IL-6の発現量も低下することが明らかとなった。ただ、今回の結果では、これらの効果を得るためには21日間以上の運動の継続が必要であることも明らかとなった。術後遷延痛の予防・治療介入の一つとして運動療法が有効であると考えられる。
コメント
臨床で認めることが多い術後遷延痛に対する運動の効果を示したものであり、介入開始が術後8日目からとしており、それでも運動を継続することで効果が得られる点は臨床を考える上で興味深い。ただ、運動強度の設定が臨床に即していると更に興味深い研究になると考える。
ホームページ担当委員:坂本 淳哉