Topic No.33高い破局的思考を有する患者の疼痛行動表出:自動制御過程の影響
The Expression of Pain Behaviors in High Catastrophizers: The Influence of Automatic and Controlled Processes.
Martel MO. et al. J Pain. 2012 Aug, 13(8): 808-15
要約
目的:
慢性痛を有する患者の疼痛行動に対する破局的思考と認知課題負荷の影響について検討した実験研究。
方法:
慢性的な腰背部痛を有する男女55名(男/女:26/29名、平均年齢:44.9歳、平均罹患期間:108.3ヶ月)を被験者とし、McGill Pain Questionnaire(MPQ-PRI)とPain Catastrophizing Scale(PCS)を用いて、疼痛強度と疼痛に伴う破局的思考を評価し、PCSの得点によって高い破局的思考を有する者(High catastrophizers:HC群)と低い破局的思考を有する者(Low catastrophizers:LC群)に分けた。
その後、各被験者は腰の高さに調節した机に置かれた重さの異なる18個の容器(2.9、3.4、3.9kg×6個)を、決められた手順で2回持ち上げた。1回目は持ち上げているときに患部に感じる疼痛を0(痛みなし)から10(耐えがたい痛み)で評価し(Pain Rating Condition:疼痛評価条件)、2回目は持ち上げている容器の重さを推定するように指示された(Weight Estimation Condition:重量推定条件)。これらの挙上動作はビデオカメラで撮影され、動作時の疼痛行動が評価された。
疼痛行動は、表情(顔を歪める、嫌な顔をする)や言語(うなり声、ため息、疼痛を訴える)などの伝達疼痛行動(Communicative pain behaviors:CPB)と患部を保護する(擦る、押さえる、触る)ような防御疼痛行動(Protective pain behaviors:PPB)に分けて記録され、頻度と強度を基に各疼痛行動が点数化された。そして疼痛評価条件と重量推定条件でのこれらの点数についてHC群とLC群で比較した。
結果:
○MPQ-PRIは、LCに比べてHCで有意に高値を示した。
○PPBは、疼痛評価条件と重量推定条件ともに、LC群に比べてHC群で有意に高値を示した(図左)。一方、CPBは疼痛評価条件でLC群に比べてHC群で有意に高値を示しが、重量推定条件では、HC群の疼痛行動は大きく減弱され、LC群とHC群に有意な差を認めなかった(図右)。
コメント
高い破局的思考を有する者に対する疼痛行動の表出メカニズムを検討した報告であり、重量物の挙上によって重量を推測するような認知処理過程(挙上動作によって感じる重量感に注意を向け、その重量を推測するための情報を探索的に収集し、それらを統合して過去の経験と照合する)は、他者に痛みを伝える伝達疼痛行動表出に干渉することが明らかとなった。また、高い破局的思考を呈する疼痛患者の疼痛管理にも示唆を与える知見である。
ホームページ担当委員:坂野 裕洋