Topic No.771型コラーゲン人工神経を用いた舌神経再建術の予後に影響する因子
Interval between injury and lingual nerve repair as a prognostic factor for success using type I collagen conduit
Erakat MS, et al. J Oral Maxillofac Surg. 2013 May;71(5):833-8.
要約
舌神経損傷の修復術において、1型コラーゲン人工神経と、それを使用しなかったものとを比較し、感覚の回復(FSR)への影響とそれに関与する因子を検討した。その結果、感覚回復に最も影響があったのは手術までの待機期間であった。
方法:
アメリカ合衆国、New Jersey大学口腔外科を1999年から2009年までに受診した舌神経損傷患者を対象に後ろ向きに検討した。受傷から3か月間舌の感覚が回復しなかった患者に対して手術を行なった。手術は神経剥離の後神経腫を切断し、神経断端縫合の手順で行われ、NeuroGen(R)で神経接合部を包み込んだ。
検討項目:予測変数の概要を以下に示す。
1.患者背景:患者年齢と損傷した年齢、性別
2.手術因子:損傷の種類、1型コラーゲン人工神経の使用の有無
3.感覚検査結果:冷覚・温覚、痛覚刺激に対する反応、方向感覚と振動覚の認識、2点弁別閾値、触覚閾値など
Outcome: 末梢神経損傷治療後の感覚評価には英国医学研究協会の感覚障害スケールを使用した(以下に示す)。
S0(無感覚)
S1(痛み感覚のみ)
S2(痛みとある程度触覚あり)
S3(痛みと触覚はあるが過大反応はない)
S4(完全回復・2点弁別閾値が15から20mm)
なお、S3以上を機能的回復とした。
結果:
本研究の対象期間内で舌神経修復手術を受け、その後の予後が調査できたのは41名であり、計42本の舌神経が調査対象となった。平均の予後追跡期間は平均9.7±3.8か月(最短期間3.5か月から最長18.0か月まで)であった。患者背景としては1型コラーゲン人工神経を使用した群と使用しなかった群との間では、平均年齢、性別に有意差はなく、両群ともに智歯の抜歯による損傷発生が最も多かった。
S3レベルを機能的回復とした場合の平均回復期間は下記に示すように、使用した群の方で成功率が高く、カプランマイヤー法による分析では使用した群の回復は100%であったが、使用しなった群では術後12か月の時点では82.7%であった。
比例ハザードモデルにより機能的感覚回復に影響する因子の分析では、手術までに9か月以上経過すると回復は有意に遅れることがわかった。
コメント
三叉神経損傷における外科的治療法が感覚回復に及ぼす効果の報告は、人工神経による修復を行った例数自体が少ないために少ない。従来一般的に損傷した部分は皮神経移植により架橋して修復されていることが多かった。今回人工神経を用いることにより感覚が回復しやすくなり、9か月という時間的な要因が機能回復に好成績をもたらすことが示されたことにより、今後の外科的治療時期決定に参考となることが予想される。しかし日本で本神経損傷の患者から要望されるのは多くの場合感覚回復が目的ではなく、それにより生じた難治性慢性疼痛の治療である。この点に関して今後の検討が期待される。
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