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2018-12-10

Topic No.150
CRPS患者の視覚的注意分配機能は障害されていない

Complex regional pain syndrome (CRPS) or continuous unilateral distal experimental pain stimulation in healthy subjects does not bias visual attention towards one hemifield.
Filippopulos FM, et al

要約

背景/目的:
CRPS患者では自己身体中心の偏位を認めることが報告されており,その要因として持続的な片側性の疼痛による体性感覚情報の不均衡が影響しているといわれている。しかし,CRPS以外の片側性疼痛では自己身体中心の偏位を認めないことから,その詳細は明らかでない。また,Reinersmann(2012)は,CRPS患者では健常者にも存在する左側バイアスが自己中心的参照系の障害により増強していることを指摘し,視空間注意の偏位が自己身体中心の偏位に関与している可能性を示唆している。しかし,持続的な痛みが視覚的注意に影響するのか,またCRPSにおいて視覚的な注意分配機能の障害を認めるのかは明らかでないことから,本研究はこれらを明らかにすることを目的とした。

対象/方法:
①健常者6名を対象に,持続的な痛み刺激を加えた状態と加えない状態でのサッケード運動反応時間を比較した。

②CRPS患者と健常者(各9名)のサッケード運動反応時間を比較した。
<サッケード運動反応時間>
1)中央の□にターゲット「+」を提示
2)1.5秒後左右どちらかの□を明点(cue提示)
3)cue提示後「+」を左右どちらかの□内に提示し,「+」を注視するまでの反応時間を測定

結果:
①痛み刺激側と非刺激側への「+」提示による反応時間に差はなく,また痛み刺激を加えた状態と加えない状態でも反応時間に差はなかった。
②CRPS患者において患側または健側への「+」提示による反応時間に差はなく,またCRPS患者と健常者で反応時間に差はなかった。

まとめ:
健常者に片側性の持続的な痛み刺激を加えた時とCRPS患者のどちらにおいても視覚的注意の偏位は認めなかったことから,持続的な片側性の疼痛は外的空間に対する注意メカニズムに影響しない可能性が示唆された。

コメント

ターゲットの提示と痛み刺激が時間的・空間的に一致した時のみ,注意は痛みによって影響されるといわれており,持続的な痛みが注意バイアスに影響しないという本研究の結果はこれらの報告を指示している。一方,慢性痛患者では痛み関連刺激に対してのみ選択的に注意バイアスを生じるとの報告もあることから,CRPSと注意バイアスの関係について,より高次な機能を含めた検討が必要であると考える。

ホームページ担当委員:城 由紀子