Topic No.99Toll様受容体による神経障害性疼痛の発症と調節
Toll-like receptor signaling adapter proteins govern spread of neuropathic pain and recovery following nerve injury in male mice.
Stokes AJ, et al. J. Neuroinflammation 2013 Dec 9;10(1):148
要約
背景/目的:
自然免疫を司る細胞であるマクロファージや樹状細胞は,病原体が独自に発現する構造を認識するパターン認識受容体(PRRs: pattern-recognition receptors)を発現し,このPRRsを介して活性化シグナルが伝達される.PRRsの中でもToll様受容体(TLRs)はアダプター分子であるMyD88やTRIF(TIR domain-containing adaptor-introducing IFNβ)などと結合,NF-κBやIRF3などの転写因子を活性化する事で炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα,IFNβ等)の産生を誘導する(TLRsのシグナル伝達経路[e-免疫.comサイトより引用]).特にTLR4は雄性齧歯類で神経障害性疼痛の発症に関与する可能性が示唆されている.rn 脊髄におけるグリア細胞活性化の阻害が神経障害性疼痛由来の知覚過敏やアロディニアなどの疼痛関連行動を抑制する事は諸家より報告があるものの,Toll様受容体(TLRs)がもたらす慢性疼痛への影響についてその詳細は明らかでない.本研究では,2つの主要なTLRシグナル経路と,いくつかのTLRの役割について単神経性のアロディニアモデルを用いて検討した.
方法:
野生型C57BL/6マウス(WT・雄/雌性)および9種の雄性トランスジェニックマウス(Tlr2-/- Tlr3-/-, Tlr4-/-, Tlr5-/-, Myd88-/-, Triflps2, Myd88/Trilps2, Tnf-/-, Ifnar1-/-)を用い,L5脊髄神経の結紮(SNL)モデルを作成した(下表)rn また,雌性Tlr4-/-マウスでもSNLモデルを作成した.評価項目はvon Frey hairsテストによるアロディニア評価および脊髄の免疫化学染色によるIba-1(マイクログリアマーカー),GFAP(アストロサイトマーカー)の評価を行った.疼痛閾値は1-/2-way ANOVAおよびBonferroni post hoc testにより統計処理を行った.
結果:
WT群では,SNLにより持続する強いアロディニアが観察された.一方で雄性TLR2,3,4,5欠損マウスにおいては不完全ながらも有意に術後アロディニアが改善(おおよそ50%程度)したが,この効果は雌性Tlr4-/-マウスでは観察されなかった.SNL側の脊髄腰膨大部でのIba-1およびGFAPはいずれの群でも増加を呈していたが,Myd88-/-もしくはMyD88-/-/ Triflps2マウスではおおよそ50%の疼痛閾値低下とIba-1の発現低下を認めた(図).
一方でTriflps2およびIfnar-/-マウスにおいてはSNL側のみならず健側でも深いアロディニアを認めた.脊髄標本ではTriflps2マウスにおいて,WT群よりもIba-1の免疫活性が増加していることを確認したが,GFAPの免疫活性については有意な変化はなかった.Myd88-/-マウスではTRIFシグナル欠損によりみられる健側のアロディニアはみられなかった.反対に, IFNβ(TRIFシグナル下流生成物)を髄腔内投与することで一時的にアロディニアは改善された.
結論:
雄性マウス単神経障害モデルにおける神経障害性疼痛の発症において,下記3点が示唆される.
1)個々のTLRsは神経障害後のアロディニア発症には中等度に関与する.
2)TRIFはIFNβ経路を介してTLR3活性化由来のアロディニアの介在,およびその改善に関与する.
3)MyD88経路は健側のアロディニア発症に関与している.
つまりMyD88経路は重要な役割を担う一方,TRIF経路は神経障害性疼痛の制御に深く関わる可能性がある.
コメント
TLRsはもともとハエにおける真菌防御因子として発見されたTollのヒトホモログとして同定されたものであり,特に免疫系の研究では活発な議論が交わされているトピックスである.TLRsを介して細胞内シグナルと疼痛,特に神経障害性疼痛の関連を考察することで今後の痛み研究の発展や治療にも有用である事が予想され,更なる研究の発展が待たれるところである.
ホームページ担当委員:折田 純久