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2018-12-07

Topic No.126
有酸素運動トレーニングは健常者の痛みの耐性を向上させる

Aerobic training increase pain tolerance in healthy individuals.
Jones MD. et al. Med Sci Sports Exerc. 2014 Aug;46(8):1640-7

 

要約

背景/目的:
運動による即時的な疼痛抑制効果については多くの検討がなされているが、継続的な運動トレーニングが痛みの感受性や耐性を変化させうるかについてはほとんどわかっていない。本研究は、6週間の有酸素運動トレーニングが健常者の痛みの感受性、耐性に与える影響を検討した。

対象/方法:
対象は健常成人24名とし、運動群12名(男性1名、女性11名、年齢24.4±4.3歳)とコントロール群12名(男性2名、女性10名、年齢21.8±1.6歳)に割り付けた。運動群は下肢エルゴメータを最大心拍数の75%の負荷で30分間駆動する運動を週3回、6週間継続した。コントロール群は通常通りの身体活動量の生活を6週間継続した。主要アウトカムは最大酸素摂取量、虚血性疼痛(※)による痛みの耐性と痛みの強度、上肢(僧帽筋、上腕二頭筋)と下肢(大腿直筋、前脛骨筋)の圧痛閾値とし、介入前後で測定した。
※虚血性疼痛:虚血状態で筋の収縮を反復させると痛みが生じ、徐々に痛みが増して耐え難い痛みとなる。本研究では、利き手側の上腕をタニケットにて200mmHgの圧力で駆血し、その状態で最大握力の30%で収縮(グリップ)、弛緩を4秒毎に繰り返すことで痛みを発生させ、耐えることができる範囲で最大限反復させた。痛み耐性は、虚血状態での反復グリップ運動の継続時間とし、痛みの強度は30秒毎にNRS(0~10)にて聴取し、変化率および最大値を指標とした。

結果:
運動群で介入後に最大酸素摂取量と痛みの耐性が有意に向上した。しかし、圧痛閾値、虚血性疼痛の強度については変化がなかった。コントロール群では介入前後で主要なアウトカムに変化はみられなかった。また、運動群の介入前後での最大酸素摂取量の変化と痛み耐性の変化とに有意な相関関係はみられなかった。。

コメント

運動による即時的な疼痛抑制効果では、主に痛み閾値の上昇が起こることが報告されているが、今回の継続的な運動では痛み閾値の上昇はみられずに痛みの耐性のみが向上した。運動による疼痛抑制効果のメカニズムは未だ明らかにはされておらず、今回の報告でもメカニズムの解明には至っていないが、少なくとも、急性的な運動と慢性的な運動で疼痛抑制の効果やメカニズムは異なる可能性が考えられる。痛み耐性は痛み閾値に比べて、より心理社会的・行動学的要素を含むことも考慮する必要がある。
今回の結果は検討の余地はあるものの、慢性痛患者に患部以外の運動を継続的に行わせることで疼痛抑制効果を得られる可能性を示唆しており非常に興味深い。今後は運動による疼痛抑制メカニズムについても検討できるようにパラメータを増やすことや、実際の慢性痛患者で研究を行うことが求められる。

ホームページ担当委員:下 和弘