Topic No.140側坐核-内側前頭前野の機能連結は腰痛の慢性化の予測因子となる
Corticostriatal functional connectivity predicts transition to chronic back pain
Baliki MN et al. Nat Neurosci. 2012; 15(8): 1117-9
要約
背景/目的:
近年の脳画像研究から慢性痛と脳の構造的、機能的変化の関連が示されている。しかし、痛みの慢性化に先行する脳の変化は特定されておらず、脳画像から痛みの慢性化を予測するまでには至っていない。本研究は亜急性の慢性腰痛患者を1年間フォローアップし、痛みの強さの変化と脳の構造学的変化、機能的変化との関連について調査し、腰痛の慢性化に関わる脳の変化について検討した。
方法:
方法1
対象は発症から4~16週間の亜急性期腰痛患者(VAS 40/100以上)39名、健常者17名とした。脳画像の撮像は、baseline(腰痛発症後平均13週)、baselineの約7週後、29週後、1年後とした。脳画像から全脳の灰白質体積、各領域の灰白質密度、機能的連結を解析した。また、腰痛患者に対しては撮像時に腰痛の強さをVASにて聴取した。39名の亜急性腰痛患者のうち、1年後の痛みの強さがbaselineよりも20%以上改善した者を改善群、改善のなかった者を慢性化群とした。
結果:
結果1
慢性化群では、7週後から全脳の灰白質体積の有意な減少がみられ、1年後では健常者と比べて有意に灰白質体積が小さかった。また、慢性化群で特徴的に灰白質密度が減少していた部位は側坐核、島皮質、感覚運動野であった。機能的連結について、baselineでは慢性化群、改善群ともに側坐核と基底核、内側前頭前野との間に有意な連結がみられた。慢性化群と改善群を比較すると、側坐核と内側前頭前野の機能連結の間に有意差があり、baseline、1年後いずれも慢性化群で連結が強かった。
方法:
方法2
亜急性腰痛患者(方法1と同一の被験者)において、baseline時の側坐核と内側前頭前野の機能連結の強さと1年後の予後(改善または慢性化)についてROC曲線を求めた。また、追加の亜急性期腰痛患者13名に対してprospectiveに同様の評価を行い、ROC曲線を求め、妥当性の検証を行った。
結果:
結果2
ROC曲線のAUCは0.83(p<0.01)であった。妥当性検証のコホートではROC曲線のAUCは0.81(p<0.05)であった。
まとめ:
痛みの慢性化に伴う変化としては、側坐核、島皮質、感覚運動野の灰白質密度の減少があり、亜急性期の時点での側坐核と内側前頭前野の機能連結の強さはその後の腰痛の慢性化を予測する因子となることが示された。
コメント
脳機能画像の生理的な意味の解釈については常に議論の的であるが、本研究では痛みの慢性化に先行して側坐核と内側前頭前野の機能連結の強化が起こり、亜急性期の時点で評価することで慢性腰痛への移行を予測できる可能性を示しており、非常に興味深い知見といえる。
ホームページ担当委員:下 和弘