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2018-12-04

Topic No.85
催眠にかかりやすい者におけるプラセボ鎮痛に関連した脳活動について

Hypnotic susceptibility modulates brain activity related to experimental placebo analgesia.
Huber A, et al. Pain. 2013 Sep;154(9):1509-18.

 

要約

背景/目的:
プラセボ鎮痛が生じやすい者の性格や,脳活動はこれまでにもいくつか調査がなされてきている.今回は,催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じている時の特徴的な脳活動を調査した.

方法:
対象は健常成人とした.催眠へのかかりやすさは,Stanford Hypnotic Susceptibility Scaleというスケールを用いて評価された.対象者に対して,プラセボ鎮痛を予測している時と,プラセボ鎮痛が生じている時の脳活動をfMRIにて測定した.そして催眠にかかりやすい者とそうでない者の脳活動を比較した.

結果:
今回の実験では,催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じやすいという結果は認められなかった.しかしながら,催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じている時には以下のような特徴的な脳活動が認められた.催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じている時には,前頭前野背外側部が有意に活動していることが明らかとなった.それに加えて,プラセボ鎮痛を予測している時では,前頭前野背外側部と前部帯状回・内側前頭前野との間に負のコネクティビティーが認められた.また,プラセボ鎮痛が生じている時では,前頭前野背外側部と視床・尾状核・楔前部・後側頭領域の間に負のコネクティビティーが認められた.

考察:
催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じている時に活動した前頭前野背外側部は,認知的な痛みの制御に関わる脳領域であることがこれまでの研究でも明らかになっている. また,前部帯状回・内側前頭前野は痛みに対する情動的側面や痛みの価値判断に関わっている脳領域である.
今回の実験で前頭前野背外側部と前部帯状回・内側前頭前野との間に負のコネクティビティーが認められたということは,痛みの情動的な側面が認知的に制御されたことを表していることが考えられる.一方,視床や尾状核は注意や覚醒に関わる脳領域であり,楔前部や後側頭領域は身体意識なども含めた自己認識に関わる脳領域である.
今回の実験で前頭前野背外側部と視床,尾状核,楔前部,後側頭領域の間に負のコネクティビティーが認められたということは,痛みに対する注意や自己認識などが認知的に制御されたことを表していることが考えられる.

コメント

今回の実験では,必ずしも催眠にかかりやすい者にプラセボ鎮痛が生じやすいというわけではない.ここで重要なことは,プラセボ鎮痛には個人によって様々な認知的ストラテジーがあり,それぞれに神経活動が異なるということである.日常の臨床では,個々の性格や認知能力を十分に考慮し,その人にとっての適切な痛みの説明や教育学的な関わりが重要であるということであることが示唆される.

ホームページ担当委員:大住 倫弘