Topic No.39変形性股関節症の慢性疼痛患者では、痛みが改善すると、前帯状回、島皮質、背外側前頭前野の灰白質密度の低下が回復する
Brain gray matter decrease in chronic pain is the consequence and not the cause of pain..
Rodriguez-Raecke R, et al. J Neurosci. 2009 Nov 4;29(44):13746-50.
要約
変形性股関節症による慢性疼痛患者で、voxel-based morphometry (VBM)法を用いて、手術で痛みが全くなくなった患者において、手術4ヶ月後に灰白質密度がどのように変化するかについて検討した。
方法:
変形性股関節症による慢性疼痛患者32例について、3T MRIを使用したvoxel-based morphometry(VBM)法を用いて、年齢および性別をマッチさせた健常対照群と比較し、灰白質密度の低下している部位を調べた。
次に、股関節全置換術(THR)を受けてから痛みが全くなくなった患者10例で、手術4ヶ月後の、灰白質密度の変化を調べた。
結果:
変形性股関節症による慢性疼痛患者32例では、健常対照群と比較して、前帯状皮質(ACC)、右島皮質、背外側前頭前皮質(DLPFC)、扁桃体、眼窩前頭皮質、脳幹の灰白質密度が減少していた。
股関節全置換術(THR)を受けてから痛みが全くなくなった患者10例において、手術4ヶ月後の時点で、これらの領域で、手術前の慢性疼痛状態の時のものと比較して、灰白質の有意な増加を認めた。
考察:
今回VBM法を使って、変形性股関節症の慢性疼痛患者で、治療前後で治療が奏効した患者では、前帯状皮質(ACC)、島皮質、背外側前頭前皮質(DLPFC)、扁桃体、脳幹の灰白質密度の減少が、正常化されることが認められた。
慢性疲労症候群患者で認知行動療法を実施すると、外側前前頭皮質の灰白質の量が増加することが示されている。また、その構造変化は、認知能力の改善と正の相関関係があったと報告されている。
本研究により、慢性疼痛患者で認められる灰白質密度の低下は、痛みの治療が奏効すると正常化されることが示唆された。
コメント
様々な慢性疼痛で痛みに伴う不快情動の処理や痛みの評価、認知に関連する領域である前帯状回、島皮質、背外側前頭前皮質(DLPFC)、扁桃体などの局所脳領域で灰白質密度が低下することが報告されている。股関節慢性疼痛患者という一つの疾患であるが、上記の灰白質密度の低下が、痛みの改善とともに回復してくることが認められたことは大きな意義がある。今後様々な疾患で、調査していくことが期待される。今回の研究では、痛みの消失のみで、慢性疼痛に関与する認知能力、抑うつ、不安などの心理状態、破局化思考などの心理的パラメーター、日常生活の障害度などが調べられていない。そのようなパラメーターの変化とVBMによる局所脳領域灰白質密度の変化の関連わかれば、痛みを緩和させ、クオリティーオブライフ(QOL)を高めることに重点を置いた慢性疼痛の治療法の臨床的意義がクリアになってくると考えられる。
ホームページ担当委員:福井 聖