Topic No.182変形性膝関節症患者における下行性疼痛抑制機能と運動誘発性鎮痛の関連性
Exercise-induced Hypoalgesia in People With Knee Osteoarthritis With Normal and Abnormal Conditioned Pain Modulation.
Fingleton C, et al. Clin J Pain. 2017; 33(5): 395-404
要約
はじめに:
Conditioned pain modulation(CPM)は,条件刺激によって痛みが修飾される現象で下行性疼痛抑制機能を反映するとされており,変形性膝関節症(膝OA)患者におけるCPM反応の減弱は,疼痛感作の臨床指標のひとつとされている。一方,Exercise-induced hypoalgesia(EIH)は,有酸素運動や等尺性収縮運動などによって痛みが抑制される現象で,内因性疼痛抑制系を介した鎮痛作用と考えられており,膝OA患者では等尺性膝伸展運動や上肢の等張性抵抗運動後に疼痛感受性が減弱することが報告されている。CPMとEIHは,それぞれ異なる経路によって痛みに対して抑制的に働くが,その経路はかなりの部分で重複している可能性がある。そこで本研究は,膝OA患者を対象にCPM反応の違いがEIH効果に与える影響について検討した。
対象/方法:
対象は膝OA患者40名と健常ボランティア20名であり,寒冷昇圧試験後に自転車エルゴメータによる有酸素運動または重錘を用いた膝関節伸展の等尺性収縮運動を15分間の休憩を挟み順不同で行った。評価は寒冷昇圧試験および各運動の前後に前腕と大腿,膝関節内側の圧痛覚閾値(PPT)を測定した。膝OA患者は,寒冷昇圧試験によってPPTの上昇を認めた者をNormal CPM群(n=21),それ以外のものをAbnormal CPM群(n=19)に分類し,健常ボランティア20名(Control群,n=20)を含めた3群で比較検討した。
結果:
有酸素運動や等尺性収縮運動において,Control群とNormal CPM群では,運動前と比較して運動後に有意なPPTの上昇を認めたが,Abnormal CPM群では有意なPPTの低下を認めた。また,有酸素運動や等尺性収縮運動前後のPPT変化率において,Abnormal CPM群はControl群と比較して有意に低値であった。なお,有酸素運動や等尺性収縮運動によるPPTの変化率と寒冷昇圧試験によるPPTの変化率には,正の相関(中等度)を認めた。
結論:
本研究に参加した膝OA患者の47.5%(19 / 40名)では,寒冷昇圧試験によってPPTの上昇を認めなかったことから,膝OA患者には,CPM反応を引き起こす下行性疼痛抑制機能の機能異常が疑われるものがいることが示唆される。また,異常なCPM反応を認める膝OA患者では,有酸素運動や等尺性収縮運動などによってPPTの上昇が生じなかったこと,有酸素運動や等尺性収縮運動で得られたEIH効果と寒冷昇圧試験で得られたCPM反応に正の相関を認めたことなどから,CPM反応を引き起こす下行性疼痛抑制機能が内因性疼痛抑制系を介したEIH効果と関連していることが推察される。
コメント
膝OA患者は,本邦において年々増加傾向にあり,その初期段階では薬物療法と運動療法による保存的治療が行われている。本研究結果を参考にすると,膝OAに伴う疼痛管理を行う上で,CPM反応で下行性疼痛抑制機能を評価することは,SNRIs(serotonin-noradrenalin reuptake inhibitors)のような薬剤や運動療法による鎮痛効果を予測し,患者それぞれの病態に応じた段階的な治療介入に寄与する可能性が考えられる。しかし,本研究の結果からは,下行性疼痛抑制機能と内因性疼痛抑制系の関連を裏付ける神経経路について推測の域をでないこと,疼痛の強度や疼痛感受性,それに伴う機能障害との関係性について不明なことから,さらなる検討が必要と考える。
ホームページ担当委員:坂野 裕洋