Topic No.43外傷性頸部症候群の慢性頭痛患者では、前帯状皮質(ACC)と背外側前頭前野(DLPFC)の 灰白質密度の低下し、痛みが改善すると、灰白質密度の低下が回復する。
Gray matter changes related to chronic posttraumatic headache.
Obermann M, et al. Neurology. 2009 Sep 22;73(12):978-83.
要約
外傷性頸部症候群による慢性頭痛患者で、voxel-based morphometry (VBM)法を用いて、事故から3ヶ月後、頭痛が消失した12ヶ月後に灰白質密度の変化について検討した。
方法:
外傷性頸部症候群による頭痛が生じた32例について、事故から14日以内と3ヶ月後に、voxel-based morphometry(VBM)法を用いて、年齢、性別をマッチさせた健常対照群と比較し、灰白質密度の低下している部位を調べた。12例が3ヶ月以上持続する慢性頭痛を発症し、これらの患者では、12ヶ月後にも、灰白質密度の変化について調べた。なお12例中11例で、12ヶ月後には頭痛が消失していた。
結果:
外傷性頸部症候群による頭痛が生じた32例では、3ヶ月後の時点で、健常対照群、ベースライン測定時と比較して、前帯状皮質(ACC)と背外側前頭前野(DLPFC)の灰白質密度が低下していた。
痛みが消失した慢性頭痛患者11例では、12ヶ月後の時点で、これらの領域の灰白質密度の低下は正常化していた。
慢性頭痛を発症した患者では、3か月後と比較して12ヶ月後には、下行性疼痛抑制系に関与する脳幹中枢(中脳水道周囲灰白質;PAG)、左右視床、左右小脳の灰白質密度の増大が認められた。なおベースライン測定時の解析では、健常対照群、非慢性頭痛群、慢性頭痛群の3群間で灰白質密度の違いは認めなかった。
考察:
外傷性頸部症候群による慢性頭痛患者では、発症と伴にACC、DLPFCの灰白質密度が減少し、それらは痛みが消失と伴に正常化されることが認められた。急性段階では、構造的な変化は存在していなかったことから、ACCとDLPFCの灰白質密度の低下は、慢性頭痛発症のプロセスに関与していると考えられる。これらの変化は、頭痛が消失したこと一致して1年後に完全に回復しており、慢性頭痛と関係があることが確認された。
ACCは痛みの不快情動処理や認知に関与しており、ACCの灰白質密度の低下は、慢性疼痛の発症に中軸的な役割を果たしていると考えられる。DLPFCは脳内で眼窩前頭皮質に対して”トップダウン”の抑制機能があり、痛みの抑制系に関与することが示唆されており、DLPFCの領域が委縮し、正常に機能しないと、慢性疼痛が生じるものと考えられている。
コメント
むち打ち症患者の約15%が慢性頭痛を発症するが、外傷性頸部症候群による慢性頭痛の基礎と機序については、解明が進んでいない。外傷性頸部症候群による慢性頭痛患者という一つの疾患であるが、痛みの慢性化と伴にACC、DLPFCの灰白質密度の低下が起こり、痛みの改善と伴に回復してくることが認められたことは大きな意義がある。 どのような治療が行われたのか、詳細な記述がないのが残念ではあるが、本研究によって慢性疼痛の治療において、痛みが脳に与える影響を考えながら治療していくことの臨床的意義が明らかになったと考えられる。
ホームページ担当委員:福井 聖