Topic No.28急性腰痛に対する早期画像診断:ワシントン州の労働者における1年後の健康状態と障害状態
Early imaging for acute low back pain : One-year health and disability outcomes among Washington State workers.
Graves JM, et al. Spine. 2012 Aug 15;37(18):1617-1627.
要約
背景:
腰痛に対する早期の診断的MRIは医療保険費用を増加させているが、遅い画像診断と比較して良い結果に繋がっていないかも知れない。労働者補償システムの中で、腰痛は一般的で費用がかかっている。本研究では、腰痛のある労働者の早期MRIと健康状態(痛みの程度、Roland障害スコア、SF-36スコア)と障害状態の受傷後1年の時点での関係を調査する。
目的:
ワシントン州労働者の補償請求者のpopulation-basedサンプルにおいて、早期画像診断と健康・障害の状態の関係を急性腰部損傷後1年の時点で評価すること。
方法:
ワシントン州の労働者で非特異的腰痛を補償請求している者におけるこの非ランダム化前向きコホート研究では、管理された請求とインタビュー・データを用いた。健康状態スコア、1年後の障害の相対リスク、そして受傷後1年での復職率を概算するために多変量回帰分析法を用いた。
結果:
1226名の対象者のうち、18.6%が早期MRIを受けていた。77.9%は軽度/重度の捻挫であり、22.1%は神経根症であった。早期MRI群では、ベースラインでの痛み、機能、そして心理社会的変数で明らかに違いが認められた(Table.2)。
一方分散調整後では、早期画像診断は、捻挫や神経根症による1年後の健康状態と本質的な相違と関連がなかった。
さらに、軽度/重度の捻挫の労働者においては、早期画像診断は、1年後の労働障害による利益が2倍の尤度と関連していた(調整相対リスク:2.03、95%CI:1.33-3.11)。また、神経根症の労働者においては、早期画像診断は、長期障害のリスク増大とは関連していなかった(調整相対リスク:1.31、95%CI:0.84-2.05)。両群において、早期MRIはより長い障害期間と関連していた(Table.3)。
結論:
腰痛のある労働者において、早期MRIはより良い健康状態とは関連せず、障害の程度とその期間の尤度の増大と関連していた。これらの関連性は、今後のランダム化対照試験によるさらなる調査の必要性を示している。われわれの結果は、証拠に基づいたガイドラインの厳守が、労働者が労働災害に対する最高のケアを受けることを保証する重要な因子であることを示唆している。
コメント
早期MRIとは受傷後6週以内のMRIのこと。ベースライン・インタビューは受傷後2-3週で行っている。発表されている腰痛診療ガイドラインでは、red flagがなければ受傷後6週以内の画像診断は必要ないとしている。今回の結果は、「早期の画像診断は意味がない」と言うより障害期間を延長させてしまうと言う意味で「有害である」可能性を示唆している。著者らは早期の画像診断が恐怖を与え、回復に要する期間を延長させているのではないかと考察している。rn最近アメリカの各学会で発表したChoosing Wiselyをみると、American Academy of Family PhysiciansとAmerican College of PhysiciansがともにFive Things Physicians and Patients Should Questionの中のひとつに「腰痛に画像診断は不要である」を選んでいる。医師だけに薦めても患者側もこの点を理解してくれないと画像検査を減らすことは困難であろう。
ホームページ担当委員:矢吹 省司