Topic No.187感覚運動の不一致による知覚変容は,変形性関節症患者や健常人と比較して,線維筋痛症患者およびCRPS患者においてより強く,痛み強度に関連する.
Brun C, et al. Eur J Pain. 2019; Mar;23(3):483-494.
要約
背景:
複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome; CRPS)患者や関節リウマチ患者では,痛みに加え患肢を実際と比較して浮腫んでいる,重い,冷たいといったように主観的に知覚する様々な異常知覚や身体イメージの変容が訴えとして聞かれる(McCabe et al., 2000; Moseley 2005; Lewis et al., 2007; Peltz et al., 2011).この研究では,感覚運動の不一致による主観的な知覚(異常知覚や身体イメージ)変容が疾患により特徴があるか,また,心理的要因により主観的な知覚の強さが影響を受けるかを検討しました.
方法:
健常人32名,線維筋痛症36名,CRPS38名,変形性関節症/関節リウマチ34名に対して,両上肢の間に片面が鏡となった衝立を設置して両肘関節を左右同方向または逆方向に屈伸運動を運動中に鏡を見せる条件と見せない条件で実施しました。鏡を見せながら両肘関節を逆方向に屈伸運動させると,鏡に隠れた上肢への運動指令と入力される体性感覚情報に対して鏡からの視覚情報に不一致が生じます。異常知覚ならびに身体イメージの変容に関しては,運動後に9項目の質問を行いそれぞれ7段階で評価させました。心理的な影響を確認するためにThe Hospital and Anxiety and Depression Scale (HADS),感覚障害に関してはThe Cardiff Anomalous Perceptions Scale (CAPS)を用いて評価しました。
結果:
どの疾患のグループにおいても感覚運動の不一致条件で,異常知覚ならびに身体イメージの変容が強く惹起されました。線維筋痛症とCRPSのグループは,健常者と変形性関節症/関節リウマチのグループと比較して惹起される異常知覚や身体イメージの変容に違いが認められました.さらに,この主観的な知覚と心理面の評価との間には相関関係は見られなかったことから,心理的要因により主観的な知覚の強さが影響を受けることは確認されませんでした。
考察:
疾患により異常知覚と身体イメージの変容に違いがあることが明らかとなったが,症例数が少ないため主の病態とは言い難い。しかしながら,異常知覚と身体イメージの変容の強さがCAPSと相関関係を認めたことから,感覚障害が存在すると運動意図と感覚フィードバックとの不一致が大きくなり,感覚運動の不一致に対して脆弱になると考えられた.
コメント
本研究成果は,慢性疼痛患者が訴える様々な異常知覚や身体イメージの変容が感覚運動の不一致により生じることを裏付けるものである。そのため,痛みに加えて異常知覚や身体イメージの変容が生じていないかを評価したうえで,理学療法や作業療法の際には感覚運動の不一致を最小限にしながらリハビリテーションを進めることの重要性を提唱する研究である.
ホームページ担当委員:片山脩