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2018-12-07

Topic No.120
慢性疼痛および痛みの破局的思考(反芻)患者では内側前頭前野に関連するデフォルトモードネットワークが強化されている

Enhanced medial prefrontal-default mode network functional connectivity in chronic pain and its association with pain rumination.
Kucyi A, et al. J Neurosci 2014; 34: 3969-75

要約

背景/目的:
実験的侵害刺激による痛みに応じた脳活動を計測する脳機能画像研究の手法では、自発痛を評価することが出来ない。脳の安静時(刺激付加がない状態)の自律的な脳活動とその局在を評価する手法が開発され、このような脳の基盤的な活動と局在はデフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれている。特にDMNで機能していると考えられる後部帯状回(PCC)は内側前頭前野(mPFC)や扁桃体など脳領域と密接な機能的結合性を持つ。特にmPFCは疼痛下行性抑制系の起始点である中脳水道周囲灰白質と解剖学的線維結合を持ち、痛みの調節に関して中心的な役割を果たすと考えられる。今回、慢性疼痛患者を対象にmPFCと機能的に結合する脳領域を調査した。

対象/方法:
○ 特発性顎関節症患者17人と健常者17人を対象とした。
○ mPFCを関心領域に設定し、mPFCと機能的結合性を持つDMNを、3T MRIを用いて評価した。
○ 痛みの強さ(11段階NRS)以外に、痛みの破局的思考質問票のうち反芻(rumination)の点数とmPFCと各DMN脳領域との機能的結合性を相関解析した。

結果:
○ mPFCと視床、中脳水道周囲灰白質(PAG)の機能的結合性は痛みの破局的思考(反芻)と正の相関が認められた(図A)。
○ mPFCとPCCの機能的結合性と痛みの破局的思考(反芻)は慢性疼痛患者において正の相関する一方で、健常者では相関しておらず、mPFC-PCC機能的結合性は慢性疼痛患者のみの特徴であった(図B)。

コメント

○ mPFCに関連するDMNの機能的結合性の強化が複数の脳領域に対して観察された。いずれの脳領域も痛みの破局的思考(反芻)と相関しており、DMNが基盤的脳神経活動であることから、慢性疼痛患者では痛みの破局的思考という性格傾向をDMNが表現していると考えることに矛盾はない。
○ mPFCは感情の認知や価値判断を担う脳領域で、痛みに伴う不快感の認知とともに理性的な情動判断(パニックを起こさないようにする)を行っている。今回の結果ではmPFCと視床やPAGとの機能的結合性が観察され、疼痛下行性抑制系(PAG)の機能が減弱している結果、痛みの上行性入力の中継点(視床)の機能が亢進していると解釈できるかもしれない。
○ DMNの中心的な脳領域であるPCCとmPFCの機能的結合性は健常者と大きく異なることから、痛みの客観的指標や診断ツールとしての利用が今後期待される。

ホームページ担当委員:住谷 昌彦