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2018-11-30

Topic No.56
慢性痛の大規模疫学調査(Europe)

Survey of chronic pain in Europe: prevalence, impact on daily life, and treatment.
Harald Breivik et al. Eur J Pain. 2006 May;10(4):287-333.

 

要約

2003年に、欧州15カ国とイスラエルを含む16カ国において大規模な慢性痛の疫学調査を行った。

方法:
調査はコンピューターによる電話インタビュー方式(Computer Assisted Telephone Interview)で行われた。慢性痛の定義は、18歳以上、痛みが6ヶ月以上続いており、直近の1ヶ月に痛みがあり、週に数回痛みを感じていて、かつ痛みの程度がNRS(1を痛みなし、10を想像できる最悪の痛み)で5以上とした。

結果:
46394人から回答が得られて、そのうちの19%が慢性痛を有していた。
慢性痛をもつ4839人(各国300人程度)への深堀調査では、66%がNRS5-7の中等度の痛み、34%がNRS8-10の強い痛みであった。61%が慢性痛のために仕事や屋外活動の制限を感じており、13%が職を変更し、19%が職を失っていた。60%が直近の半年間で痛みのために2-9回医者にかかっていた。
40%は痛みに関して十分な治療を受けていないと答えており、疼痛治療の専門家にかかっていたのはわずか2%であった 。
欧州では5人に1人が慢性痛を有する深刻な状況であるにもかかわらず、痛みに対する治療は十分に受けることができていない現状が明らかになった。

コメント

1980年代から慢性痛に関する疫学調査が広く行われるようになったが、慢性痛の定義も調査された場所もそれぞれ異なるため、どの程度の人々が慢性痛をもっているか定かではなかった。 本研究は慢性痛の定義を統一した大規模調査であり、欧州での慢性痛有訴率は19%であった。興味深いことに、慢性痛の有訴率は国によって大きく異なっており、最も有訴率が高いノルウェー(30%)では最も低いスペイン(11%)の約2.7倍となることが判明した。 本邦では服部らが同様の定義を用いてインターネットで調査して、慢性疼痛保有者を13.4%と報告している。我々が愛知県尾張旭市で同様の郵送調査を行った結果では、慢性痛の有訴率は17.2%であった。 前述した本邦における報告や欧州で行われた調査も総合して勘案すると、我が国においては約2000万人が程度の強い慢性痛に悩んでいるというデータはほぼ正確であると思われる。

ホームページ担当委員:井上 真輔