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2018-12-12

Topic No.163
慢性腰痛に伴い変化した不安定な立位バランスでの姿勢変化に対する反応の神経メカニズムと機能修正

NEURAL MECHANISMS AND FUNCTIONAL CORRELATES OF ALTERED POSTURAL RESPONSES TO PERTURBED STANDING BALANCE WITH CHRONIC LOW BACK PAIN
Jacob JV, et al. Neuroscience. 2016; Epub ahead of print

要約

目的:
慢性腰痛患者における急激な姿勢変化に対する体内での様々な反応は、腰痛がない場合と比べて変化していると考えられているが、その神経生理学的メカニズムなどは未だ解明されていない。本研究の目的は、立位での予測不能で急激な姿勢変化に対する反応を、脳皮質誘発電位、筋活動電位および動作解析から評価検討し、その神経メカニズムを解明することである。

対象/方法:
対象は、慢性非特異的腰痛13患者と、腰痛のない13健常者である。自動的に可動する足場の上に起立し、15から30秒間の予測不能な時間で、足趾が5度の角度で上下する運動を強制的に30回施行された。その間、脳皮質誘発電位、筋活動電位および動作解析を測定された。
脳皮質誘発電位は、脳波を用いて、予測不能な運動による混乱した状態で誘発される電位N1とその次に発生するP2の振幅を算出した。筋活動電位は、表面筋電図を用いて潜時を測定した。動作解析は、モーションキャプチャ技術を用いて関節と重心の位置の変位を計測した。
慢性腰痛患者の痛みの強さ、活動への不安、破局的思考および活動量は、各々の質問票で評価した。

結果/考察:
立位での予測不能で急激な姿勢変化が起こると、慢性非特異的腰痛患者では、腰痛のない健常者と比較すると、脳波ではP2電位の振幅が有意に拡大し、表面筋電図では脊柱起立筋、腹直筋、外腹斜筋の潜時が有意に遅延し、動作解析では関節と重心位置の変位が、軽い体幹伸展位、体幹深屈曲位、膝屈曲位、そして足関節背屈位において有意に認められた。また慢性腰痛患者での重心位置の変位は、膝関節の変位、活動量低下および活動への不安に相関していた。さらにP2電位の振幅拡大は、重心位置の変位と相関しており、活動量低下や破局的思考および不安スコアにも同様に相関していた。
慢性腰痛患者では、予測不能な状態での急激な姿勢変化への反応がすぐには脳皮質で対応しきれず、遅れて脳皮質で処理され、脊柱起立筋、腹直筋、外腹斜筋などの反応潜時が遅延し、体位によって関節と重心位置の変位が起こり、それと同時に痛みによる不安や破局的思考などが惹起され、それに伴い活動量低下が出現する可能性があることが示唆された。

コメント

慢性腰痛を有する場合に予測不能な状態で急激な姿勢変化が起こると、健常人に比して脳皮質での情報処理が遅れ、脊柱起立筋、腹直筋、外腹斜筋などの反応潜時が遅延し、体位や姿勢によって関節と重心位置の変位が起こり、痛みによる不安や破局的思考などの心理社会的要因にも関連してくることを裏付ける結果が得られており、認知行動療法の観点から運動やストレッチングを指導する上で、非常に参考になる興味深い論文であると思われた。

ホームページ担当委員:髙橋 直人