Topic No.132指ブロックにおける薬剤注入時の疼痛の軽減:エビデンスレベルII
Decreasing the pain of finger block injection: level II evidence
Hamelin ND. et al. Hand. 2013 Mar;8(1):67-70.
要約
背景/目的:
指神経ブロックに伴う痛みに影響する因子には、針の太さ、刺入角度、刺入回数、薬液の温度やpH、そして薬液注入速度などがある。今回、我々は麻酔薬の注入速度を遅くすることにより指神経ブロックに伴う痛みが軽減するのではないかと仮説を立て、健康ボランティアを対象に実験を行った。
対象/方法:
研究デザインは 前向きrandomized single-injection controlled study とした。40人の健康ボランティアを対象とし、コイントスで左右どちらの指にどの方法で指神経ブロックを行うかを決定した。
薬液は、1%リドカインと10万倍希釈エピネフリンの混合液2mlとし、30ゲージの注射針を使用した。左右の中指掌側近位指皮線の皮下に、8秒(Fast)・30秒(Slow)かけてそれぞれ薬液を注入した。
薬液注入後、被検者に手技に伴う痛み(0~10のVAS)と将来もう一度ブロックをうけるならどちらを選択するかについて調査した。
結果:
指神経ブロックに伴う痛みは、30秒(Slow)が8秒(Fast)よりも有意に小さかった(p<0.001)。「もう一度指神経ブロックを受けるなら」という質問に対しては33名が30秒(Slow)、6名が8秒(Fast)、1名がどちらも変わらないと回答した。
コメント
皮下へ薬液を注射する際の薬液注入速度は、ゆっくり注入した方が痛くないのではと、多くの方が直感的に感じると思う。しかし、そういった当たり前の事実を検証した報告は少ない。EBM(evidence-based medicine)に基づく論文は今後も増え続けると考えられ、基本手技に対する論文が増えることも期待される。
本論文は指神経ブロックに伴う痛みに関する研究である。指神経ブロックは、指の外科的処置・手術に主に使用される麻酔法であり、鎮痛が目的である。しかしながら、患者は鎮痛を得るために麻酔手技に伴う痛みに耐える必要がある。麻酔や手術に伴う痛みは医原性の痛みであるため、医療従事者はその痛みを最小限に抑える努力をする必要がある。そういう側面からも、本論文は意義のあるものと考える。
ホームページ担当委員:園畑 素樹