Topic No.148日本における、小児期の不運な出来事と成人期の慢性痛の関係性
Childhood adversities and adult-onset chronic pain: Results from the World Mental Health Survey, Japan.
Stickley A et al. Eur J Pain. 2015 Nov;19(10):1418-27.
要約
背景/目的:
小児期の不運な出来事と成人期の慢性痛との関連が指摘されており、欧米諸国中心に報告されている。過去の報告では、小児期の不運な出来事は、成人期の腰痛や関節痛、頭痛と関連性があると言われているが、欧米諸国と日本では文化の違いもあり、このことが単一民族の日本でも当てはまるかどうかは不明である。そこで本研究では、日本において小児期の不運な出来事と成人期の慢性痛との関連性について調査した。
方法:
2002年から2006年の間で、11のコミュニティ(3つの大都市と、8つの市町村)の20歳以上の住民を対象として、面接形式での調査を行った。4134人の面接者に対して最終的な回答が得られたのは55%であった。面接は2つのカテゴリで構成され、1つは対象者の精神心理状態の分析を目的に、もう1つは小児期の不運な出来事と精神心理状態、もしくは慢性的な身体の不調について調査する目的に行われた。
小児期の不運な出来事は、18歳以下で生じた以下の11の具体的事項の体験の有無を調査した。
○親の死亡 ○親の離婚 ○親との決別 ○親の精神障害 ○親の身体疾患 ○親の犯罪行為 ○家庭内暴行 ○身体的虐待 ○性的虐待 ○家族間無視 ○貧困
また、慢性痛に関しては①リウマチまたは関節炎の有無、②慢性頚部痛又は腰痛の有無、③習慣的な頭痛の有無、④他の非特異的な慢性痛の4種類について調査した。
以上、慢性痛にリスク因子について1740人の記録から、コックス比例ハザードモデルで解析した。
結果:
○小児期に受けた身体的虐待は、成人期の慢性頚部痛または腰痛(HR:2.6)および非特異的な慢性痛(HR:1.9)のリスク因子であった。
○小児期に受けた性的虐待は、成人期の非特異的な慢性痛のリスク因子であった。(HR:2.8)
○小児期の不運な出来事の数が多いと、成人期の非特異的な慢性痛のリスクが高くなっていた。(HR:2.8)
* HR:Hazard Ratio
考察:
日本においても頸部痛や腰痛の慢性化には小児期の虐待歴が関与するが、関節痛の慢性化にはこれらの関与が乏しいことが示された。後者はこれまでの世界的な報告とは一致しない結果であるが、その理由として、本調査のサンプル数が少ないためかもしれないと推察している。
一方、本調査は後ろ向き調査であり、痛みの性質も正式な患者カルテに基づくものではないことがLimitationとして挙げられる。
コメント
本調査は、本邦においても、慢性痛患者の背景にその人の成育歴が関わっていることを示す重要なデータであると思われる。しかし小児期に経験する不幸の出来事は、本人の問題ではない。では、このような不幸な体験をした人にどのような対応をすればよいか?がこれからの課題である。
ホームページ担当委員:池本 竜則