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2018-12-07

Topic No.117
脊柱管狭窄症に対する硬膜外ステロイド注射の無作為化試験

A Randomized Trial of Epidural Glucocorticoid Injections for Spinal Stenosis.
Friedly JL. et al. N Engl J Med. 2014 Jul 3;371(1):11-21

 

要約

背景/目的:
硬膜外ステロイド注射は、高齢者の痛みや障害の原因となりやすい腰部脊柱管狭窄症の症状改善のためにしばしば用いられる。過去20年で、硬膜外ステロイド注射の頻度とコストは3倍になっている。しかし、その効果と安全性についてははっきりとしたデータが不足している。そこで、硬膜外ステロイド+リドカイン注射群(G群)と硬膜外リドカイン単独注射群(L群)の効果について比較する試験を行った。
本論文は、Topic No.38のコメントにも記載されてあるBMC Musculoskelet Disord 13(48) 2012の研究結果である。

対象/方法:
無作為化二重盲検比較試験を16の施設で行った。患者は50歳以上、MRIかCTで診断を受けたものとした。そして、さらに、過去一週間で立位、歩行、腰の伸展、臀部、下肢の痛みが平均4以上(0~10: NRS)のもの、腰よりも下肢や臀部が痛いもの、ローランドモリス質問表(RMDQ)で7点以上(0~24)のものとした。脊柱管狭窄のないもの、手術適応のもの、脊椎手術や硬膜外ステロイド注射を受けた既往のあるものは除外した。
患者は希望すれば3週間後に再度硬膜外ステロイド注射を受けることができることとした。手技は透視下で行った。経椎弓間法の場合、狭窄の最も強い部位の一つ下から、経椎間法の場合、症状のあるレベルで注射した。両側や複数個所からの注射も許可した。経椎弓間法か経椎間法かは医師が選択した。局所麻酔薬は1~3mlの0.25%~1%のリドカインを用いた。ステロイドは、トリアムシノロン(60-120mg)、ベタメサゾン(6-12mg)、デキサメサゾン(8-10mg)、メチルプレドニゾロン(60-120mg)の中から医師が選択した。薬液量はG群とL群で同じにした。
主要評価項目は二つで、6週間後のRMDQと下肢痛や臀部痛の一週間の平均のNRSとした。副次評価項目は、6週後のスコアが、30%以上改善した患者の割合、50%以上改善した患者の割合、腰痛、Brief Pain Inventory、PHQ-8(鬱のスコア)、GAD-7(不安のスコア)、EQ-5D(QOLのスコア)、Swiss Spinal Stenosis Questionnaire(SSSQ)とした。評価は、注射前と、3週後、6週後に行った。

結果:
400人の患者を200人ずつ、G群とL群に無作為に振り分けた。282人が経椎弓間法、118人が経椎間孔法であった。
6週間後に、RMDQは両群とも改善した(G群: 16.1→11.8、L群15.7→12.5)が、G群とL群との差は1.0ポイント(95%CI, -2.1 to 0.1; P=0.07)であった。下肢痛と臀部痛も両群ともに改善した(G群: 7.2→4.4、L群: 7.2→4.6)がG群とL群の差は0.2ポイント(95%CI, -0.8 to0.4; P=0.48)であり、有意差はなかった(3週後では有意差があった)。
副次評価項目ではPHQ-8と、SSSQの満足度でG群L群に比べが有意に改善したが他に有意差はなかった。サブグループ解析での経椎弓間法と経椎間孔法の比較では有意差はなかった。副作用は、G群で多かった(P=0.02)。G群では3週間後と6週間後のコルチゾール分泌が抑制されている患者の割合が多かった。

考察:
腰部脊柱管狭窄症の治療において、硬膜外ステロイド+リドカイン注射は硬膜外リドカイン単独注射に比較して、わずかに短期効果が勝るか、もしくは、有意な差はない。

コメント

腰部脊柱管狭窄症に対して硬膜外にステロイド(+リドカイン)を注射しても、リドカイン単独注射に比べて、ごくわずかに短期的に有利なだけであった。しかも全身への作用により、コルチコステロイド分泌抑制が起こる可能性があり、硬膜外へのステロイドは慎重な投与が望ましいと考えられる。このような神経ブロックの効果を検証する研究を日本からも発信したい。

ホームページ担当委員:西江 宏行