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2018-12-03

Topic No.73
脊椎画像における本当の助けとインチキな手掛かり

Real Help and Red Herrings in Spinal Imaging. (editorials)
Deyo RA New Eng J Med 2013;368(11):1056-1058.

 

要約

脊椎画像は診断確定や手術計画に不可欠な役割を持つ。しかし、改善した解像度をもってしても、現代の画像は、警告を与えつつ、臨床的帰結に結びつかないものしか明らかにしない。そのような所見は、本筋の問題から注意をそらし、インチキな手掛かりとなるかもしれない。無関係な所見は、患者を恐れさせ、不要な検査や時にリスクのある介入というカスケードを始めさせる可能性があり、このような場合、情報は損害を与える。
脊椎の画像もこのリスクの例となる。腰痛や坐骨神経痛がない成人は厄介な画像所見をもつ。Jensenらの報告では、無症状の大人のわずか36%しか正常の椎間板でしかなかった。半数以上が膨隆した椎間板を持ち、加齢と共に増える。4分の1以上が椎間板の突出を持ち、その他の異常所見は普通であった。このような疑わしい関連は患者の信念や行動に悪影響を及ぼすかもしれないし、治療計画にも影響をあたえるかもしれない。
腰痛をもつlow riskの患者における6つのメタアナリシス解析では脊椎の画像診断は患者の転帰に関して利益がないことが示されている。
また今号のel Barzouhi et alの報告では、手術群より保存療法群の方が、一年後の画像でヘルニアや神経根の圧迫が見られたにも関わらず、その所見は、悪い臨床結果と関連がなかった。神経根の瘢痕組織の存在も臨床結果と関連がなかった。そのような所見は不要な追加の画像検査や手術を招くかもしれない。したがって、術後に臨床家は、遷延したまたは再発した症状を画像のヘルニアや瘢痕組織のせいに、すぐするべきではない。
どうして症状は椎間板ヘルニアの存在や神経根の圧迫と関連が低いのかよくわかっていない。神経根の炎症は坐骨神経痛の重要な特徴であり、炎症の状態が解剖学的な椎間板と神経根の接触よりも重要なのかもしれない。さらにうつや休業補償などの心理的因子が坐骨神経痛患者における手術の不良転帰の独立した因子になっている。
脊椎画像と臨床所見との関連を見分けるのは現在進行形の難しい問題である。病歴と理学所見が画像選択の鍵になる。MRIに正常においてみられる所見を診断レポートに併記する戦略もある。観察研究で、このようにすると、レポートを受け取る人たちの中の警告を最小化し、臨床介入や画像の繰り返しを減らすことを示された。患者が直接画像レポートを得られるような時代には、そのような戦略の重要性が増すだろう。

コメント

視覚的な証拠は説得力がある。最新のMRIは脊椎をクリアに可視化し、それを見た人への影響は計り知れない。しかし、無症状の成人のある一定の割合に、何らかの画像所見が存在することや、MRIによる椎間板ヘルニアの評価では、転帰良好例と不良例は識別されないことが示されるようになってきた。また画像診断では独立した危険因子である心理社会的因子の評価はできない。本邦のMRIの普及率は世界一であるが、患者の転機に利益があるように運用されているか検討が待たれる。

ホームページ担当委員:内山 徹