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2018-11-30

Topic No.62
腰椎終板変性(Modic type 1)を来した慢性腰痛患者における抗菌薬治療の効果

Antibiotic treatment in patients with chronic low back pain and vertebral bone edema (Modic type 1 changes): a double-blind randomized clinical controlled trial of efficacy.
Albert BH, et al. Eur Spine J. 2013 Epub ahead of print.

要約

慢性腰痛患者における腰椎MRI終板変性(Modic type1)所見は高率に腰痛との関連が示唆されており,発生要因のひとつとして弱毒嫌気性菌による感染の可能性が報告されている。本研究では感染説に基づき抗菌薬投与による鎮痛作用について調査したところ,有意な腰痛の改善効果が報告された。

背景:
椎体終板のModic type1変化(MRIにてT1強調low,T2強調highを呈する)は腰痛患者の35-40%に存在し腰痛との関連が示唆されている(非特異的腰痛に関するオッズ比4.5)。変性原因として椎体ストレス,椎間板ヘルニアに続発する弱毒嫌気性菌感染(Propionibacterium acnes,Corynebacterium propinquum等)の可能性が報告されている。本研究では特に感染由来説をもとに,Modic type 1を呈した慢性腰痛患者における抗菌薬治療の鎮痛に関する有用性について報告した。

方法:
前向き無作為試験として研究を行った。
対象:診察前6-24ヶ月以内にL3/4,L4/5およびL5/S1に椎間板ヘルニアを認め,6ヶ月以上に及ぶ腰痛を呈し(Numerical Rating Scale(NRS)> 6)保存もしくは手術治療を受けた症例を対象とした(下肢痛の有無,神経障害性疼痛の有無は問わない)。
抗菌薬投与群もしくはプラセボ群に無作為に割り当てられ,100日間の投与を受け,治療前,治療終了時,および終了後1年で評価のうえ比較検討した。
評価項目:
①primary:障害度スコア,腰痛
②secondary:下肢痛,過去4週間での有症状時間,EQ-5Dスコア,除痛期間,常時痛,MRI

結果:
162名の患者のうち144名が投与後1年で評価された。
2群は治療開始前においては特に有意差はなかったが,抗菌薬投与群では全ての項目において改善を認め,投与終了後100日の段階でも鎮痛効果は見られたが,投与終了後1年での鎮痛効果が有意であった。これは局所の弱毒菌除去の有無が関与しているものと考えられる。またMRI所見においても輝度変化の部分は抗菌薬投与群で有意に減少していた。
Propionibacterium acnesはプロピオン酸分泌により脂肪髄と骨を分解する作用を持ち,さらにTNFαやPGP-5陽性の神経線維の増加がModic変性を生じる可能性がある。さらに抗菌薬投与群で下肢痛の改善も認められており,これは治療に伴う体性神経への刺激の減少や神経根障害を呈する椎間板障害が関与しているものと考えられる。
Modic type1変化を伴う慢性腰痛患者に対して行った抗菌薬治療は,腰痛治療において有用であった。多くの抗菌薬,特にテトラサイクリン系抗菌薬はTNFα阻害による抗炎症作用を持つことが報告されており,抗菌作用によるものよりは抗炎症作用による鎮痛作用が考えられる。

コメント

椎間板変性と腰痛の関連については諸説あり,一定の見解を得ていない。本研究で取り上げられた弱毒菌感染は可能性あるメカニズムのひとつであり,抗菌薬投与で鎮痛作用が得られたのは興味深い。ただし抗菌薬の持つ抗炎症作用によるものである可能性も否定はできないため,今後局所組織の評価など含めた客観的なエビデンスの収集が必要となると思われる。

ホームページ担当委員:折田 純久