Topic No.17腰痛のない患者がその後3年間で腰痛を生じうる危険因子
Three-Year Incidence of Low Back Pain in an Initially asymptomatic Cohort:Clinical and Imaging Risk Factors.
Jarvik GJ, et al. Spine 2005 Jul;30(13):1541-8
要約
腰痛のない患者において3年後に腰痛を生じうる危険因子を検討したコーホートスタディ。
方法:
無作為に抽出した過去4ヶ月間において腰痛を自覚したことのない外来患者148人(35-75歳)において、初診時と3年後における腰椎MRIの所見(椎間板突出の有無(protrusion/extrusion)、神経根の圧迫・インピンジメント,中心性脊柱管狭窄について)を評価すると同時に、4ヶ月おきに得られたデータ(pain frequency index(PFI)、 modified Roland Disability scale、SF-36)を比較することで腰痛を生じる危険因子を検討した。
結果/考察:
調査開始時対象となった143名のうち、実際に3年後に調査対象となったのは131名であった。うち123名に対して腰椎MRIによる再検を行い評価した(下図)。
この3年間で新規に腰痛を生じたのは67%(88名)であり、腰痛予測項目(年齢、腰痛歴、喫煙、うつ、BMI高値、男性、MRI画像所見)のうち、うつ状態が最も大きなハザード比(2.3, 95%CI=1.2-4.4)をもった唯一の危険因子として検出された。また、調査開始時の画像所見においては、中心性の脊柱管狭窄および神経根の接触が有意ではないものの最大のハザード比を呈していた。
一方で、新たな腰痛の発症には終板変性(type1)や椎間板変性、線維輪の破綻、椎間関節の変性などの所見は関与していなかった。新たなMRI所見の発生率は高くはなかったが、9%(11名)の患者で椎間板の低信号化を呈していた。新たに椎間板のヘルニア(extrusion)を呈した5例全て、および新たに神経根のimpingementを呈した4例全てが新たに腰痛を呈していた。
うつ状態が腰痛に対して悪影響を与えるという結果は過去の論文と比し矛盾しない。またextrusion typeのヘルニアや神経根圧排が疼痛に与える影響は、神経傷害に伴うものと考えられる。
結語:
うつの有無は新たな腰痛を惹起する重要な予測因子であり、MRI所見はそれに比べると重要度は低い。MRI所見において新たに所見があっても必ずしも新規の腰痛に直結するわけではないが、extrusion typeのヘルニアや神経根への接触・インピンジメントなどの所見が新規腰痛発生において重要であるものと思われる。
コメント
近年では腰痛の原因の一つとしてより上位・中枢性の神経症状である脳での異常も挙げられている。教科書的には疼痛は末梢神経系のみならず脊髄を門戸とした脳までの中枢神経系も含めて伝達・認知されるものであり、その意味で高位の神経系における異常の一つであるうつ状態が疼痛に対して影響を及ぼすことは不思議ではない。むしろ痛みがうつ状態を亢進させさらに疼痛に対する閾値が下がってしまう、といった悪循環も予想される。疼痛は脳から末梢に至る経路からなるため、今後は精神科医やカウンセラーなども含めたより総合的な慢性疼痛治療が重要となってくるものと思われる。
ホームページ担当委員:折田 純久