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2018-12-07

Topic No.115
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の皮膚における免疫反応の活性化

Activation of cutaneous immune responses in complex regional pain syndrome.
Birklein F, et al. J Pain. 2014 May;15(5):485-95.

 

要約

はじめに:
CRPSの病態の一つとして皮膚の異常があげられる.これまでに行われてきたCRPSモデルラットを用いた検討では,皮膚のケラチノサイトや肥満細胞が感覚神経や交感神経に刺激されて炎症性サイトカインを誘導し,これが痛みを引き起こしていると推測されている.そこで今回,CRPS患者の皮膚を採取し,皮膚組織における組織学的変化,炎症性サイトカイン(TNF-αとIL-6)の発現状況,肥満細胞(トリプターゼ)の分布状況を観察した.

対象/方法:
対象者は四肢にCRPSを呈する患者55名(女性37名:67%,男性18名:33%)で,平均年齢は49.4±1.8歳(20~72歳)である.
基礎調査として,罹患部位,罹患期間,皮膚温,痛みの程度(NRS),骨折の有無(原因疾患)等の情報収集を行った.また皮膚は、対象者の患側と健側の手部または足部から採取し,表皮厚の測定および免疫組織解析を行った.

結果:
○ 罹患期間は中央値16週(3~920週)で,痛みの程度(NRS)は平均6.4±0.3ポイントであった.また,対象者の48%がアロディニア症状を呈していた.原因疾患は遠位部骨折(コーレス骨折等)が最も多く全体の42%を示し,CRPSタイプは全体の76%がタイプⅠ,24%がタイプⅡであった.なお,患側と健側の皮膚温の差は0.0±0.2と小さかった.

○ 皮膚厚,ケラチノサイト数,肥満細胞数,痛みの程度(NRS),罹患期間,皮膚温,年齢のそれぞれの相関関係をみると,①皮膚厚とケラチノサイト数,②肥満細胞数と皮膚温,③年齢と皮膚厚・ケラチノサイト数の間に,正の相関関係が認められた.また,④罹患期間と皮膚厚・ケラチノサイト数・肥満細胞数の間には,負の相関関係が認められた.

○ 罹患期間が4週間未満の者を急性期CRPS,4週間以上の者を慢性期CRPSと定義・分類し,皮膚組織の解析を進めた.その結果,急性期CRPSの皮膚厚とケラチノサイト数は,健側に比べ患側の方が有意に高値を示した.これに対して,慢性期CRPSの皮膚厚は患側の方が有意に低値を示した.

○ TNF-αの発現を患側と健側で比べたところ,急性期CRPSでは,対象の42%は患側の方が高値,4%は患側の方が低値を示し,54%は両側とも同値であった.また,慢性期CRPSでは,25%は患側の方が高値,14%は患側の方が低値,61%は両側とも同値であった.

○ TNF-αと同様にIL-6の発現をみると,急性期CRPSでは,対象の39%は患側の方が高値,61%は両側とも同値であり,患側の方が低値を示した者はいなかった.また,慢性期CRPSでは,対象の23%は患側の方が高値,12%は患側の方が低値,65%は両側とも同値であった.

○ 肥満細胞数の解析結果,急性期CRPSでは,皮膚組織に分布する肥満細胞数は健側に比べ患側の方が有意に高値を示した.これに対して,慢性期CRPSの皮膚では患側と健側の間に差は認められなかった.

コメント

論文筆者の研究グループは,末梢組織の痛みの伝達機構には皮膚ケラチノサイトの働きが関わるという仮説を基に,慢性痛の痛み発生のメカニズムを皮膚という側面から解析を続けている.今回はCRPS 患者の皮膚を対象とした検索である.結果としては,急性期CRPS患者の皮膚では炎症性変化が認められ,肥満細胞やケラチノサイトが供給源と思われる炎症性サイトカインが増加していることが示された.研究グループが以前発表したCRPSモデルラットの皮膚を対象とした研究結果でもほぼ同じ結果が得られていた.論文内では,CRPSの痛み発生における末梢神経・ケラチノサイト・肥満細胞の関わりをモデル化した図(仮説)も示されており,大変興味深い.ただ,皮膚の変化と痛みの程度(NRS)の間には相関関係が認められていないため,本研究の結果のみではCRPS 患者の痛み発生メカニズムに対する皮膚の影響を言及することはできないと思われる.

ホームページ担当委員:中野 治郎