Topic No.29認知行動療法と運動療法の組み合わせによる介入は、心的外傷を負った患者の痛みへの対処方法を改善する
Physical Activity within a CBT intervention improves coping with pain traumatized refugee: Results of a randomized controlled design.
Liedl A, et al. Pain Med. 2011 Feb;12(2):234-45.
要約
目的:
慢性痛とPTSDを合併している心的外傷を負った難民に対するバイオフィードバック認知行動療法(CBT-BF)と運動の併用が痛みとPTSDに及ぼす効果に関して検討した。
方法:
心的外傷を受け慢性痛とPTSDの診断を受けた難民30人を対象に、CBT-BF単独群、CBT-BFと運動を併用する群(以下、運動併用群)、治療を待っているコントロール群の3群に振り分けた。CBTは1回90分の治療を10セッション行った(3-6か月)。運動併用群には、理学療法士によりストレッチ・筋力増強運動・持久力運動のホームエクササイズの実施方法が指導され、1日20分間自宅で実施するよう説明された。評価は治療開始前、10セッションの治療終了後、治療終了3ヶ月後の3つのタイムポイントで実施した。
評価は、PTSDスケール、痛みの強さ(verbal rating scale)、痛みへの対処(認知的対処と行動的対処を評価、German Pain Coping Questionnaireを使用、高点数は適切な対処を表す)、不安(The Hopkins Symptom Check list-25 )、痛み発生部位の筋電図、ストレス状況下および痛み状況下での心拍数について実施した。そして、各群における経時的変化と3群間の比較を行った。また、各群における治療開始前と治療終了後および治療開始前と治療終了3ヶ月後の効果量(Cohen’s d effct size※)を用いて求めた。
※効果量 d=0.2を小、d=0.5を中、d=0.8大 として表したもの。
結果:
10セッションの治療終了後、CBT-BF単独群では不安と行動的対処において改善が認められたが、治療終了から3カ月後には行動的対処は治療開始前のレベルに戻っていた。運動併用群では不安と認知的対処に改善が認められ、これは治療終了から3ヶ月後においても継続していた。また、痛みの強さを各群において経時的に見ると、有意な減少は認められなかった。
さらに、CBT-BF単独群と運動併用群を比較すると、認知的対処については運動を併用する群で有意に改善していたが、他の評価項目では有意差を認めなかった。
次に、運動併用群のPTSD、痛みの強さ、認知的対処、行動的対処における効果量はCBT-BF群のそれらと比べより大きかった。
一方、筋電図や心拍数については各群の治療開始前後や各群間における有意差を認めなかった。
考察:
CBT-BFに運動を併用することで、痛みへの対処、特に、認知的対処が改善した。痛みへの対処の質問紙の下位項目を分析してみると、認知の再構築や自己能力への気づきといった項目において、運動併用群はCBT-BF単独群より高得点であり、これらのことが今回の結果の要因と推測される。
コメント
今回の対象者は、平均6年間もの長期間にわたり痛みとPTSDを合併しており、重度の慢性痛患者と考えられる。そのような患者に対して、短期間であってもCBT-BFに運動を併用することで痛みへの認知的対処を改善できていることは、長期的に運動を継続することで痛み自体も改善できる可能性を示していると思われ、慢性痛患者に対して運動を長期的に継続できるような指導や体制が必要と思われる。
ホームページ担当委員:坂本 淳哉