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2018-12-03

Topic No.78
軸性腰痛(Axial Low Back Pain)について:その知覚様式と機序

Axial Low Back Pain: One Painful Area – Many Perceptions and Mechanisms
Forster M, et al. PLOS ONE vol.8(7), e68273, 2013

 

要約

下肢痛を伴わない腰痛のみの症例(軸性腰痛)における,神経障害性疼痛(NeP)の関与について考察した.全1083症例のうちNePを有すると診断されたのは約12%であり,灼けるような痛みや発作的な痛みなど,特有の痛みを呈する群もみられた一方で明らかに特徴的な症状は呈さない群も存在した.NeP患者には有意に精神的な合併症(睡眠障害,うつ病,パニック障害など)が合併していた.また椎間板手術の既往のある群ではNePを有する傾向にあった.

背景/目的:
疼痛領域の基礎研究が進むにつれ,腰背部痛(Back Pain)は侵害受容性疼痛(NoP: Nociceptive Pain)および神経障害性疼痛(NeP: Neuropathic pain)の二つの疼痛要素が混合した混合性疼痛Mixed painから成り立つことがわかってきた.一方で神経根症状のない腰痛(軸性腰痛Axial Low Back Pain)における混合性疼痛の関与については明らかではない.特に神経障害性疼痛の関与は,患者と治療者の双方にとって薬物治療をはじめとする治療が奏効しづらく,特に腰痛治療が難渋する要素の主因の一つでもある.

評価目的は以下の通りである.
1)軸性腰痛にNePはどの程度関与しているのか
2)軸性腰痛患者における知覚に関する典型的な症状とその合併症の分布調査
3)椎間板手術患者と非手術患者における軸性腰痛の比較

方法:
本研究は2006年1月から2010年12月にかけ,ドイツ国内の450施設にて行われた他施設研究である.下肢痛のある患者は除いた軸性腰痛患者のみを対象とし,その性質をNePスクリーニングツールであるpainDETECT(PD-Q)によりスコアリングし,19点以上をNeP,12点以下を侵害受容性疼痛とした.疼痛強度はvisual analogue scale(VAS)を用いて評価し,現在の痛みのみならず過去4週間での最大の痛みと平均的な痛みの強度を記述した.

結果:
軸性腰痛患者1083名(男性453名,女性630名,平均年齢58±15歳)における解析を行った.椎間板手術の既往があるのは158名(14.5%)であり,最大の痛み,平均の痛み,現在の痛みの平均値はそれぞれ順に7.2, 5.3, 4.7であった.
全対象患者のうちNePを有すると診断されたのは12%であった.クラスター分析の結果,特徴的な症状をもつ5群(表参照)に分類され,一部の患者はNeP要素を持つ一方でその他はNoPの要素を持つと判断された.椎間板手術の既往のある患者は,有意差はないものの既往のない患者に比べてよりNeP要素を示す傾向にあった(P=0.2215).

結論:
PD-Qを中心とした記述式の疼痛評価は,潜在する精神的合併症なども鑑みると疼痛強度のみの場合と比しよりよく疼痛の性質を評価するものと考えられる.本研究でみられたようなグループ編成は,より適切な疼痛治療を行うために有用であろう.

考察:
本研究において:
1)軸性腰痛におけるNeP要素は12.1%であり,合併症もその多くでみられた.
2)慢性軸性腰痛は,疼痛知覚の様式により5群に分類された.
3)椎間板手術既往はよりNePを惹起している傾向があった
軸性腰痛患者は,機構的に異なる疼痛機序・症状により特徴付けられる.侵害受容性の腰痛は深部の体性構造に対する有害刺激によって惹起され,時に感覚神経の椎間板組織内伸長によってしばしばもたらされ,腰背部に限局するうずくような鈍痛が代表的な痛みである.
今回の研究結果から,記述式の重症度診断に基づく疼痛知覚の判断は,VASによる疼痛強度のみの場合と比し患者をより詳細に分類できるため,より優れた評価法であることが示唆された.簡便なツールにより標準化された疼痛症状の表現型に基づく治療を検討することで,軸性腰痛の薬物療法に非常に高い成功率をもたらすものと考えられる.

合併症について:
腰痛患者は,高率で睡眠障害やうつ病,パニック障害などの精神症状を合併していることが示された.さらにNeP患者ではこれらの障害がより頻繁にみられると報告され,本研究の結果と合致している.

椎間板手術とNeP:
手術の既往のある患者で統計学的有意ではないもののPD-Qスコアが高い傾向があったが,これは手術手技による軟部組織・神経へのダメージ(機械的,熱的および化学的刺激)によりこれらの現象は説明されうる.特に高度な脊椎手術は重度の組織破壊にもつながるため,この数字は高値を示しうると考えられる.

コメント

下肢痛を伴う腰痛は腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアによる神経圧迫・障害に起因するためNePの要素を持つことは想像に難くないが,これまでNoPが病態の首座と考えられてきた軸性腰痛もNePの要素を含むことを示唆したことは,腰痛治療と病態解析という点において非常に重要であると考えられる.本研究で示された5グループにおける腰痛機序についてはより深く検討する必要はあるが,非特異的腰痛の一つである軸性疼痛の機序解明の一助となりうる文献である.

ホームページ担当委員:折田 純久