Topic No.113遺伝子による実験的侵害刺激と病的痛みの大脳皮質での情報処理に対する影響
The genetic influence on the cortical processing of experimental pain and the moderating effect of pain status.
Vossen H, Kenis G, Rutten B, et al. PLOS ONE 2010; 5: e13641
要約
はじめに:
疼痛関連分子に関係する遺伝子の多型が痛みの認知や薬物療法の効果に影響を与えることが知られている。疼痛関連の遺伝子多型として報告されている多くが主観的な評価であるNRSやVASとの関連を示されているだけで、客観的な電気生理学的所見とは必ずしも関連付けられていない。代表的な疼痛関連遺伝子多型であるCatechol-O-Methyl Transferase(COMT)、Brain Derived Neurotrophic Factor (BDNF)、μ-Opioid Recetor 1(OPRM1)について大脳皮質事象関連電位と関連付けられるかを調査した。
方法:
○ 慢性腰痛患者78人と健常者37人を対象とし、電気刺激による実験的侵害刺激を手指に与え、その際の1次/2次体性感覚野の事象関連電位であるN1/P1、前帯状回の事象関連電位であるN2(-P2)を評価した。
○ 患者群および健常群は、COMT, BDNF, OPRM1のそれぞれについてmajor allele homo, hetero, minor allele homoの3群に分類した。
○ 事象関連電位と遺伝子多型の関連を解析した。
結果:
○ COMT, BDNF, OPRM1のいずれも慢性疼痛と実験的侵害受容性疼痛に対して一貫した影響は与えていなかった。
○ COMTについては、健常群ではmajor homo群に比してcarrier群でN2電位が低く、腰痛群ではcarrier群でN2電位が高かった。
○ BDNFについては、COMTと同様に、健常群ではmajor homo群に比してcarrier群でN2電位が低く、腰痛群ではcarrier群でN2電位が高かった。
○ OPRM1については、事象関連電位に関連性は認められなかった。
コメント
○ 疼痛関連分子の遺伝子多型は、薬物療法に対する反応性(鎮痛効果)についても影響を与える。本研究では慢性腰痛患者群の服薬状況(特にオピオイド使用の有無)が記載されておらず結果の妥当性を判断できない。
○ 慢性疼痛と実験的侵害刺激に対する痛みの認知に一貫した結果が得られていないことは不思議ではなく、これまで慢性疼痛に関連しているとして報告された遺伝子多型もあれば、侵害刺激に関連しているとして報告された遺伝子多型もあったことに矛盾はない。
○ 遺伝子多型によって大脳皮質事象関連電位と直接的に関連付けた研究は初めてであり、大脳皮質内の痛みの情報処理に関わる脳領域について新しい知見をもたらす可能性がある方法である。
○ 遺伝子多型だけでは痛み関連の大脳皮質内の情報処理に明らかな関連性が無かったことは、epigenetic制御を示唆するかもしれない。
ホームページ担当委員:住谷 昌彦