Topic No.170高齢者の内因性疼痛修飾機能は身体活動性と関連する
Physical activity behavior predicts endogenous pain modulation in older adults.
Naugle KM, et al. Pain 2017; 158 (3): 383-390
要約
背景/目的:
身体活動性と内因性疼痛修飾機能の関係性については,近年,多くの報告がされている。また,高齢者は他の年齢層と比べ活動性が低いことから,内因性疼痛促通機能が亢進,抑制機能が減弱し,慢性疼痛になるリスクが高いと考えられている。しかし,高齢者の身体活動量を実際に測定し,内因性疼痛修飾機能との関係を調べた報告は見受けられない。本研究は高齢者の1)内因性疼痛促通機能を時間的加重(temporal summation: TS),2)抑制機能をconditioned pain modulation(CPM)を用いて調べ,身体活動量との関係を明らかにすることを目的とした。
対象/方法:
対象は健常な高齢者51名(60-77歳,男21,女30名)とした。測定項目は,7日間の身体活動量,痛みの定量評価としてTSとCPM,心理状態として特性不安尺度であるState-Tait Anxiety Inventory-Trait version(STAI-T),pain catastrophizing Scale(PCS)とした。身体活動量はアクティグラフを用いて測定し,得られた値を不活動時間,低強度活動時間(LPA),中~高強度活動時間(MVPA)に分類した。TSは熱刺激を5回反復して加えた際の疼痛強度をNRS(0-100)で聴取し,1回目の刺激のNRSとNRS最高値の差を算出した。CPMはコンディショニング刺激として右手を10℃の冷水に浸漬させ,その前後での左前腕の①圧痛閾値の変化と②熱痛強度(electronic visual analogue scale)の変化を測定した。
結果:
TSはMVPAと相関を示し,MVPAが長い者ほど痛みの促通機能は抑制されていたが,不活動時間やLPA時間とTSの間に関係は認められなかった。一方,不活動時間が短くLPA時間が長い者ほどCPMによる熱痛強度の減弱,つまり疼痛抑制機能の増強を示した。しかしCPMによる圧痛閾値の変化は身体活動性と関係を示さなかった。また,性別,BMI,心理因子で補正した階層的線形モデルによる解析でも同様の関係を認めた。
結論:
今回の結果から,高齢者において高強度の活動時間の増大は中枢性感作を減弱させ,慢性疼痛のリスクを低下させる可能性が示唆された。一方,疼痛抑制機能は不活動時間や低強度活動時間と関係を示した。このことから,高齢者の内因性疼痛修飾機能は身体活動性に影響されるが,身体活動性のタイプの違いにより影響される疼痛修飾機能(促通機能または抑制機能)は異なっていると考えられた。
コメント
近年,一時的な運動ではなくregular exerciseが慢性疼痛の予防や改善に有効であることが報告されているが,適切な運動強度や方法などは未だ明確にはなっていない。今回の結果は,高齢の慢性疼痛患者に対する運動処方において,TSやCPMを用いて疼痛抑制機能と促通機能のどちらが変調をきたしているかを調べ,それに対応した運動指導をすることにより運動療法の効果向上につながる可能性を示すものであると考える。
ホームページ担当委員:城 由紀子