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2018-12-13

Topic No.172
インターネットベースの慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントプログラムの開発報告

Informing the development of an Internet-based chronic pain self-management program.
Gogovor A, et al. International Journal of Medical Informatics 2017; 97:109-119

 

要約

はじめに:
カナダでは、慢性疼痛患者に対し財政的かつ社会的に負担が増加する中で、慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントが非常に重要な役割を担っている。しかしながら慢性疼痛患者における自己疼痛マネジメントは、日常の診療において統一されたものはほとんどない。健康や自己疼痛マネジメントに関する情報提供の技術開発は、日常診療上、患者と専門医療者との間で情報交換を提供するよい機会となり得る。
本研究の目的は、1)慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントにおいて必要不可欠な情報が何であるのかと、既存の慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントプログラムの情報との違いを明らかにすること、その上で、2)患者の自己疼痛マネジメントをサポートし、効果が期待できると考えられるインターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムで、専門医療者側と患者側の双方で理解が得られるかを検討すること、および3)インターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムの将来的な技術開発と実用に関して要約すること、の3つとした。

方法:
慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントとインターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムとの違いを明らかにするために二つの検討方法を用いた。
1)文献レビューでの検討
AMED、MEDLINE(PubMed)、Embase(Ovid)、PsycINFO(Ovid)、CINAHL(EBSCO)、Cochrane Libraryや、ISI Web of Scienceなどの電子データベースから、2015年1月までに出版された原著論文に対し、慢性疼痛、自己マネジメント、自己効力感、健康志向、健康増進、セルフケア、電話、携帯電話、電子メール、インターネットベース、患者、遠隔医療などをキーワードとして調査した。
2)慢性疼痛患者と専門医療者間でのグループ会議での検討
端末使用者向けのインターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムの特性を明らかにするために、慢性疼痛患者と専門医療者および介護者の間で4つのグループ会議を開催し議論した。専門医療者は、2〜29年のキャリアを持つ内科医、看護師、理学療法士、臨床心理士、カウンセラーおよび整形外科医で構成されていた。4つのうち2つのグループ会議は、慢性疼痛患者と専門医療者との間で慢性疼痛への予防とマネジメントに関する会議で、他の2つは慢性疼痛患者と介護者の間で、それぞれの役割と必要な情報に関する会議を行った。このグループ会議には、Greater Montreal学際的リハビリテーションセンターとConstance-LethbridgeリハビリテーションセンターおよびMcGill大学健康センターの3つの施設から専門医療者が参加した。

結果:
1)文献レビューでの検討:
20の患者向けのインターネットベースのプログラムに関連した39原著論文を選出した。10%は慢性疼痛に関する総論的な論文で、その他は30%が頭痛や偏頭痛、慢性腰痛と関節痛が20%ずつで、15%が線維筋痛症に関する各論的な論文であった。これらの論文の報告から、実際の慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントとインターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムとの違いは、インターネットの場合に知識の情報量不足、ヘルスケアに関する情報の永続的ではない期間限定での公開、最適とはいえない治療の提示、および自己疼痛マネジメントへのサポート不足が含まれていることが判明した。
2)慢性疼痛患者と専門医療者間でのグループ会議での検討:
インターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムでは、専門医療者が考える慢性疼痛患者に対する自己疼痛マネジメントにおける必要な情報は、1)慢性疼痛管理には実際にどのようなことが必要かを患者に教育することが非常に鍵となるテーマであり、次に2)患者自身の治療への心構え、信念や価値観のテーマが重要であると考えられた。さらに、3)財政や法的な問題、4)プログラムの終焉に関する問題、5)ケアマネジメント不足の問題、6)教育上の専門用語、7)インターネットベースのプログラムの本質と役割、および8)プログラムの内容についてのテーマが必要と示唆された。次に慢性疼痛患者とその介護者が考える必要な情報は、1)慢性疼痛患者自身の性格や特性、2)プログラムの終焉に関する問題、3)医療の役割、4)慢性疼痛自己マネジメントに関する情報、5)仕事や収入の問題、6)インターネットベースのプログラムにおける本質と役割、7)生活や社会支援の情報、および8)慢性疼痛患者自身の動機付けに関するテーマであることが示唆された。
文献レビューとグループ会議から集めたデータから、文献レビューでは明らかとされていないがグループ会議から提案されたインターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムに必要な特徴は、慢性疼痛患者の状態によって対応できるテーラー仕立ての豊富な情報量があることで、将来的な技術開発や実用において必要不可欠な要素であることが示唆された。

考察:
インターネットベースの慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントプログラムは機械的で自動化されたものであるが、慢性疼痛患者と専門医療者から報告された豊富な情報提供やフォローアップ記事など充実した内容を含むこと、および実際の慢性疼痛マネジメントとの違いなどを明らかすることで、インターネットでは不可能な患者と専門医療者間のコミュニケーションの代用や、慢性疼痛患者の意思決定をサポートできるようにすることが必要である。しかしながら、現存するインターネットベースプログラムの文献からは、プログラムの報告数は少ないが効果的であると報告されているものの、グループ会議からインターネットの場合に慢性疼痛マネジメント知識の情報量不足、ヘルスケアに関する情報の永続的ではない期間限定での公開、最適とはいえない治療の提示、および自己疼痛マネジメントへのサポート不足などの欠点が指摘されている。このような実際の慢性疼痛マネジメントと乖離する点に関しては、将来的にインターネットベースプログラムを開発するにあたり十分に対策を検討していく必要があると考えられる。現状ではインターネットベースプログラムの特徴とその成果の間の関連性が明確に証明されていない一方で、本研究における結果は、患者と専門医療者間のコミュニケーション力の代用および様々な慢性疼痛患者に対応できるテーラー仕立ての豊富な情報源が、インターネットベースの自己疼痛マネジメントプログラムの効果を最大限にすることが示唆されたと考えられる。

コメント

カナダでは、慢性疼痛治療に費用対効果が認められるインターネットベースの慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントプログラムを推進したいという動きがあり、そのため既存のインターネットベースの慢性疼痛に対する自己疼痛マネジメントプログラムを評価し、そのあり方について検討した論文である。実際の集学的治療では、患者と医療者とのコミュニケーションやラポール形成が重要と思われるが、これをインターネットで代用するには様々な問題点があり、具体的に患者の性格や特性および慢性疼痛の病態など何種類もある中で、より近いモデルケースを用いて自己疼痛マネジメント法の引き出すことができる膨大かつ豊富な情報が必要であることが提唱されていた。このような問題点を理解することは、今後の本邦での集学的治療のシステム開発や実用化していく上で、非常に参考となる興味深い論文であると思われた。

ホームページ担当委員:髙橋 直人