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2018-12-12

Topic No.166
ロボットアームを用いた痛み回避行動の研究

Acquisition and extinction of operant pain-related avoidance behavior using a 3 degrees-of-freedom robotic arm.
Meulders A, et al. Pain 2016;157: 1094-1104

要約

目的:
痛みに対する回避行動の実験は古くから報告されているが,「大きな労力を費やせば痛みを避けられる」状況を設定した時にヒトがどのような回避行動をとるかどうかは明らかにされていない.本研究では,そのような状況下での回避行動を明らかにすることを目的とした.

対象/方法:
[対象]50名の健常成人

[痛み条件付けに使用した刺激]
痛み刺激は皮膚電気刺激を用いた(2ms duration).Stimulatorはタスク実施側の上腕三頭筋の腱に装着され,2つの電極から与えられる(直径1cm).痛み刺激はNRS 8 で実施(平均48.98mAとなった).

[ロボットアームHaptic Masterを使用した痛み条件付け]
ヒトの力量を感知することのできる装置(Haptic Master※補足あり)を用いて,
① 筋力を発揮しなければ強い痛み刺激が与えられる条件
② 最大筋力50%を発揮すると痛みを与えられる確率は50%となる条件
③ 最大筋力100%を発揮すると痛み刺激が与えられない条件
を設定して,条件付け学習段階(Acquisition phase)48 trial,消去段階(Extinction phase)24 trial実施する.なおExtinction phaseでは,条件①②③とも痛み刺激が与えられないように設定されている.

※補足)HapticMasterは力量で3次元空間の制御をすることのできるロボットで,力量の適切な変位量をセンサーで捉えることによって制御するものである.

結果/考察:
恐怖条件付け学習をされていくに従って,痛み回避をするために筋力を発揮するという回避行動が認められるようになった.また,痛み条件付け実験終了後に,痛みを与えることを止めた(消去段階)にも関わらず,筋力を発揮するという痛み回避行動は残存していた.
本研究結果によって,筋力を発揮するという労力を費やしてでも痛みを回避するという行動パターンが認められることが明らかになった.また,その行動パターンは痛み刺激を与えることを止めた後でも残存することから,恐怖心そのものがヒトの行動を変容させることが明らかとなった. さらに,このような痛み回避行動は恐怖心を抱きやすい者ほど強かったことから,心理的な個人差はヒトの行動パターンに影響を与えることも明らかとなった.

コメント

痛みに対する恐怖心がヒトの運動にどのような影響を与えるのかを明らかにした非常に興味深い研究である.しかしながら,臨床現場での痛み回避行動は本研究のような意識的な回避行動ではなく,無意識的な代償運動パターンとして出現していることが多い.そのような無意識的な回避行動パターンを明らかにしていくことが今後必要である.

ホームページ担当委員:大住 倫弘