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2018-12-13

Topic No.169
外傷性脊髄損傷患者の痛み、痙性、QOL(デンマーク調査)

Pain, spasticity and quality of life in individuals with traumatic spinal cord injury in Denmark
Andresen SR, et al. Spinal cord 2016; 54: 973-9

 

要約

はじめに:
脊髄損傷では痛み(脊髄損傷後疼痛)と痙性が生活上の問題となり、QOLが低下する。しかし、痛みと痙性の関係性については十分な解釈はなく、痛みが脊髄損傷に続発する神経障害性疼痛であるか痙性に続発する筋骨格系の侵害受容性疼痛であるかの比較は検討されていない。神経障害性の脊髄損傷後疼痛について、その発症要因を探索するとともにQOLへの悪影響を調査した。

方法:
● デンマーク全土で脊髄損傷として登録されている患者1101人を対象にアンケート調査を郵送法で調査し、回答が得られた544人分のアンケートを解析した。
● 痛みの評価は、NRSと神経障害性疼痛スクリーニング質問票DN4(3点以上を神経障害性疼痛と評価)
● 麻痺肢の痙性の有無とその程度
● QOLはInternational Spinal Cord Injury Quality of Life Basic Dataを用いて調査し、生活全般、身体的健康度、精神心理的健康度の下位尺度について多変量解析した。

結果:
● 痛みがない脊損患者(約30%)に対して、痛みがあるといずれのQOL下位尺度が低下するが、神経障害性脊髄損傷後疼痛(約40%)では特にQOLの低下が著しい。
● 痛みのうち、”冷たい”ような痛みは四肢麻痺患者で両下肢麻痺患者よりも訴えが多く、不全麻痺患者のほうが完全麻痺患者よりも多い。”しびれ感”と”かゆみ”も不完全麻痺患者で多かった。
● 罹病期間に応じてQOLは改善傾向にあったが、50年以上になるとQOLは再び低下した。
● QOL生活全般への悪影響は「痛み」と「罹病期間」が有意な項目であり、身体的健康度への悪影響は「四肢麻痺」、「痛み」と「罹病期間」が有意な項目で、精神心理的健康度への悪影響は「男性」、「痛み」と「罹病期間」が有意な項目であった。いずれのQOL尺度についても「痙性」との関連は示されなかった。

まとめ:
脊髄損傷患者のQOL低下に対して、痛みが全般的に悪影響を与えていることが示された。一方、痙性の有無はQOLへの影響は少なかった。さらに、神経障害性の脊髄損傷後疼痛では特にQOLの低下が著しいことが示された。また、神経障害性疼痛は不完全脊髄損傷の方が発症率が高かった。

コメント

脊髄損傷患者に対する治療法の中でも、薬物療法以外に理学療法が痛みに対する治療法として積極的に用いられており、一方、痙性に対しては薬物療法が中心で理学療法があまり提供されていないようである。理学療法の痛み診療における本邦での位置付けを考える上で、海外データは興味深いと考えられる。

ホームページ担当委員:住谷 昌彦