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2018-12-12

Topic No.160
線維筋痛症に対する運動は中枢性疼痛修飾機能を強化する

Exercise strengthens central nervous system modulation of pain in fibromyalgia
Ellingson LD, et al. Brain Sci. 2016;6: Epub ahead of print

 

要約

はじめに:
線維筋痛症(FM)の病態として中枢性疼痛修飾機能の異常や,感覚過敏,侵害・非侵害刺激に対する脳の過剰反応が指摘されている。一方,運動は疼痛修飾システムに影響すると考えられており,FMに対しても定期的な運動が症状改善に有効である可能性が示されている。しかし,運動は痛覚過敏を助長するとの報告もあり,また脳活動にまで影響を与えるかは明らかでない。そこで本研究はFM患者に対する運動が中枢性疼痛修飾機能に影響するかを脳活動の測定を加え検討した。

対象/方法:
女性FM患者9名と健常者9名を対象に,運動後と安静後の痛み刺激による痛み強度と脳活動(fMRI)を測定し,比較した。運動条件はBorg scale 13(ややきつい)程度の強度で自転車運動25分間,安静条件は自転車に乗車した状態での安静25分間とした。痛み刺激は侵害熱刺激とし,痛みの強度と不快感をGracely Box Scaleで測定した。

結果:
痛み強度と不快感は,安静条件では健常者に比べFM患者で高値を示したが,運動介入によりFM患者においても健常者同様に安静条件と比べて低下した。脳活動は,FM患者では安静条件に比べ運動条件で両側の前部島皮質と左背外側前頭前野(DLPFC)の活動増大を示した。さらに,安静条件と運動条件によるDLPFCの活動変化と痛み強度の変化に負の相関を示した。

結論:
単回の運動介入であっても健常者だけでなくFM患者の痛覚感受性を低下させた。また,前部島皮質やDLPFCは疼痛修飾系の重要な部位であり,これらの領域の活動性増大はFM患者の疼痛修飾機能改善において運動の有効性を示唆するものであると考える。

コメント

FM患者に対する運動の効果について本研究では痛覚過敏の改善を示しているが,一般には痛覚過敏を助長するとの報告も多く,特に単回介入では疼痛抑制効果は得られにくいと考えられている。今回対象者数が少ないこともあり,その点については疑問が残るものの,近年慢性痛の一要因と考えられているDLPFCの活動性低下が,単回・短時間・中等度強度の運動により改善するのであれば非常に興味深い。しかし,本研究の結果は運動直後のDLPFCや前部島皮質の活動性増大に留まっていることから,やはり複数回介入による長期的な効果についての検討は必要であると考える。

ホームページ担当委員:城 由紀子