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2018-12-12

Topic No.165
腰椎固定術に対する商業保険会社の適応制限の効果

Effects of a Commercial Insurance Policy Restriction on Lumbar Fusion in North Carolina and the Implications for National Adoption.
Martin BI, et al. Spine, 2016; 41: 647-655

要約

背景/目的:
変性腰椎椎間板症に対する腰椎固定術は議論の余地があり、構造化された非手術療法より効果があるとは必ずしもいえない。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症において、固定のない除圧術はエビデンスに支持されているが、固定術を追加することによるアウトカム改善は示されていない。そのような状況で、固定術はしばしば、除圧のみよりわずかな利点しかないにもかかわらず、患者をさらなる合併症に暴露することになる。
そのようなエビデンスに基づいて、ノースカロライナ州の商業保険会社(Blue Cross Blue Shield of North Carolina; BCBSNC)は、2011年1月から固定術前に事前の評価を開始し、椎間板ヘルニア、変性椎間板症等の固定術を保険適応しないことにした。我々は、同州の固定術を含めた腰椎手術の推移を、データベースを用いて調査した。

対象/方法:
2005年から2012年のノースカロライナ州の入院および外来手術データベースを調査した。入院サマリより、ICD-10の33種の診断名、24種の手術法を抽出し解析した。当該期間に、20歳以上で腰椎固定術は67783例あり、外傷、感染、腫瘍、免疫不全など9970例を除外し、57813例を対象とした。(筆者注 googleによるとノースカロライナ州の人口は2011年で 965万人で、年々増加中)

結果:
居住者10万人あたり、固定術は2005年で103.2例から2009年で120.4例と増加していたが、適応変更後2012年に101.9と低下していた。固定術の減少傾向と反対に、適応変更後、除圧術は有意に増加し、増加は固定術の低下とほぼ同等であった。腰椎全体の手術数は有意ではないが減少していた。この適応変更を全国に拡大すると、はじめの3年で医療費は270M$(2,7億ドル)削減すると推定した。

まとめ:
腰椎椎間板ヘルニア等に対する固定術は適応外となって急に減少し、同時に固定なしの除圧が増加した。固定術の減少は公的より商業保険で多く、BCBSNCでより減少していた。保険会社の観点から、適応変更は、強いエビデンスに支持された固定術の増加という意図した変化をもたらした。これを全国に拡大すれば固定術数および全体の医療費が、それに伴って除圧術が増加したとしても低下するであろう。

コメント

薬剤には適応病名が存在し、適応外使用には制限があるが、手術術式には必ずしも、適応病名はない。本研究において、病理学的背景が不変にも関わらず、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎変性椎間板症に対する固定術は2011年まで増加していた。追加コストを伴う固定術を続けるには、追加コストに見合った、またはそれを上回るメリットを示す必要があると思われるが、そのようなエビデンスは示されているとは限らない。そこで商業保険会社は、椎間板ヘルニア等に対する固定術を保険適応から外した。その結果、意図したように固定術数は減少し、それをアメリカ全土に当てはめると3年間で270M$の医療費の削減が見込まれるという。本邦でもレセプト情報の電子化に伴い、健康保険情報のさまざまな解析およびその結果の臨床への還元が可能となってきている。保険財政は逼迫しているので、特に高額な医療については、対費用効果の観点からの分析が必要となってくるかもしれない。

ホームページ担当委員:内山 徹